やまとことば⑧ する・やる1
「する」 は 意識的、無意識に関わらず、ある結果になる様に行動すること、という意味です。
「やる」 は 自分の意思で行動することや与えることに使われ、カジュアルな意味合いが強い言葉、という意味です。確かに、「やってやる」という意思を示す表現はありますが、「してする」という表現はありません。「してやる」はかろうじて成立します。「やってやる」の転訛である「やっちゃる」はありますが、「しっちゃる」はありません。このように比較すると「する」と「やる」の違いがわかりやすくなります。意思による差はかなり大きい要素といえます。
しかし、こういう表面的な意味だけでなく、文法形式として見ると、「名詞+する」という動詞は「名詞+やる」という形になることは稀有です。「哲学する」を「哲学やる」と言えば、カジュアルな感じはしますが、違和感があります。「する」の用法をさらに詳しく見ていくと、①ある状態や存在が感じられる。②あること・動作・行為などを行う。③人や物事を今とは違った状態のものにならせる。④身につける。⑤決定する。選んでそれに決める。①の例文は「カレーのにおいがする。」「寒気がする」、②の例文は「運転する。仕事(を)する。」③の例文は「彼を社長にする。」「肘を曲げて枕にする。」④の例文は「マスクをする。」「指輪をする。」⑤の例文は「私は、コーヒーにする。」などがありますので、それぞれの意味を改めて考えてみてください。「やる」の方は①そこへ行かせる。送り届ける。②目下の人や動物に与える。③何かをすることを広く、または漠然と言う。④口にする。酒やタバコを飲む。⑤失敗する。⑥物事をうまく成し遂げる。と分類できます。例文として①「子供を大学へやる。」②「鳥に餌をやる。」③「宿題をやる。」④「ちょっと一杯やる。」⑤「またやってしまった。」「やっちまったな」⑥「ついにやったぞ!」などがあります。また「する」OKでも「やる」がダメな例もあります。「父はいつも大きなくしゃみをする。」「父はいつも大きなくしゃみをやる。」(×)人や動物などの「自分の意思に関わらない行為」については通常「する」を用い、「やる」を使うことはできません。「やる」の名詞は主に動作性、意志性、具体性、継続性の高い行為を表すものに限定されます。例えば、「努力」、「判断」、「無理」、「我慢」、「失敗」などは「やる」の名詞になることができません。次の文はOKの例です。「女性たちが楽しそうに話をしている。」「 田中さんと鈴木さんが結婚した。」「 明日一緒に遊ぶ約束をした。」次は「やる」がOKの文です「 私は小学生の頃、ピアノをやっていた。」「私は小学生の頃、ピアノをしていた。」はちょっと微妙です。「大学で数学をやりたい。」は問題ないですが、「大学で数学をしたい。」も微妙です。「ピアノ」「数学」など、勉強や研究に関する具体的な分野や領域を表す名詞は「やる」を使った方が自然です。それは意思と関係があるからです。「私は中学、高校、大学と十年も英語を勉強「した」のに、英語ができない」という人が思わず「した」と言うのは本音が出てしまっています。自分の意思ではなかったわけです。
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