神無月の語源



神無月というのは旧名なので、今年は、旧暦10月1日はちょうど1カ月後の11月1日で、11月が神無月になります。しかし世間では旧暦の習慣を新暦に換算することが当たり前になってきているので、本日は神無月の話をします。神無月は「この月に日本中の神様が出雲に集まるので、出雲以外の地域では神様がいなくなる」という俗説を誰もが信じています。実はこれは民間語源で、本当のところは「語源不詳」です。したがって、出雲の神在月も後付けの偽語源といえます。

いろいろな辞典を調べるとおもしろいことがわかってきます。「(伊勢神宮・内宮に居る天照大御神以外の)神々が出雲に集まって翌年について会議するので出雲以外には神がいなくなるという説は、平安時代以降の後付けで、出雲大社の御師が全国に広めた語源俗解である」(Wikipedia)とあります。御師(おし、おんし)とは、特定の社寺に所属して、その社寺へ参詣する者や信者の為に祈祷、案内をし、参拝・宿泊などの世話をする神職のことです。江戸時代は富士山詣のための冨士講の御師が知られていますが、他にも大山講、熊野神社などにも御師がいました。本来は「御祈祷師」と呼ばれていたものを略したもので、平安時代のころから神社に所属する社僧を指すようになり、後に神社の参詣の世話をする神職も指すようになった、のだそうです。御師は神社の「営業マン」で、出雲神社の御師は「ぜひ神無月には出雲神社へ」ということで広めたデマだったのでしょうが、千年以上も経てば、それが真実になってしまったのでしょう。

日本のように歴史の長い国では、デマも文化のうちかもしれません。正式の語源となると、諸説があり、日本国語大辞典では「な」は「の」の意で、神無月は「神の月」すなわち、神祭りの月の意か。(中略)語源説として次の11説を列挙しています。1.諸神が出雲に集合し、他の地では神が不在になる月であるから〔奥義抄、名語記、日本釈名〕2.諸社に祭りのない月であるからか〔徒然草、白石先生紳書〕3.陰神崩御の月であるから〔世諺問答、類聚名物考〕4.カミナヅキ(雷無月)の意〔語意考、類聚名物考、年山紀聞〕5.カミナヅキ(上無月)の義〔和爾雅、類聚名物考、滑稽雑談、北窓瑣談、古今要覧稿〕6.カミナヅキ(神甞月)の義〔南留別志、黄昏随筆、和訓栞、日本古語大辞典=松岡静雄〕7.新穀で酒を醸すことから、カミナヅキ(醸成月)の義〔嚶々筆語、大言海〕8.カリネヅキ(刈稲月)の義〔兎園小説外集〕9.カはキハ(黄葉)の反。ミナは皆の意。黄葉皆月の義〔名語記〕10.ナにはナ(無)の意はない。神ノ月の意〔万葉集類林、東雅〕11.一年を二つに分ける考え方があり、ミナヅキ(六月)に対していま一度のミナヅキ、すなわち年末に誓いミナヅキ、カミ(上)のミナヅキという意からカミナヅキと称された〔霜及び霜月=折口信夫〕。どれもいろいろ考証をしていますが、結局は「よくわからない」つまり不詳というのが事実です。

語源の検証というのは文献などの証拠がないかぎり確定的な結論はでません。文献があっても、その語ができた後のものでは意味がありません。語源考証は簡単そうで案外難しいのです。

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