平曲
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。」この文は誰もが知っていると思います。学校でも習ったことがあるはずです。これは「平家物語」の冒頭の部分です。この平家物語を盲僧が琵琶を弾奏しつつ語るのを「平曲」と呼んでいます。「語る」というは、節を付けて歌うことで、内容が叙事詩的なので「歌う」と言わずに「語る」というのだそうです。平曲に使われる琵琶を特に平家琵琶と呼び、構造は楽琵琶と同じですが、小型のものが多く用いられるそうです。近世以降に成立した薩摩琵琶や筑前琵琶でも『平家物語』に取材した曲が多数作曲されていますが、音楽的にはまったく別のもので、これらを平曲とは呼ばないことになっています。普通に「平家物語」あるいは個別に「祇園精舎」のような題目になっています。平曲は、今日伝承されている語りもののなかでは最も古く、読み物である『平家物語』をテキストとしていることに名称の由来があり、『平家物語』の一章段「祇園精舎の鐘の声」が平曲の一曲となっています。平曲の起源については、諸説あり、一説には鎌倉時代における天台宗の民衆教化のための唱導芸術として成立したともいわれています。平曲は、娯楽目的ではなく、むしろ鎮魂の目的で語られました。それで盲僧が招聘されて語るようになりました。演者は僧形で行い、前後に読経があることもあります。平曲は、「曲節」と称される類型的な旋律の組み合わせによって構成されていて、そのうち、旋律をともなわない語りの部分は「語り句」、旋律をともなう句は「引き句」と称されます。「語り句」には、素声(しらごえ)、ハズミの2種があります。「引き句」は、「口説(くどき)」の類、「拾(ひろい)」の類、「節(ふし)」の類に分類されます。「口説」類は、1つの音節に1音をあてて作曲され、四度ないし五度程度の音程を上下する比較的単純な旋律をともなうものです。「拾」類は音節的ではあるものの「口説」類に比較すると、より複雑で数多くの音を用います。「拾」のほか「上音」「下音」などと称される旋律を含みます。「節」類は、旋律の聴かせどころとなる部分であり、「三重」・「中音」・「下り」などと称される旋律をふくんでいます。これらの曲節は、たとえば、合戦場面で拾、クライマックスとなる韻文箇所では三重、和歌の部分では上音や下音など、内容や一曲における位置などに応じて互いに異なる曲節同士を組み合わせて全体を表現し、こうした曲節と曲節のあいだを結びあわせる地の部分には口説が用いられる、という複雑は音楽的構造をしています。この音楽性は近世の琵琶演奏にも引き継がれ、演者による違いもあって、現代でも人気が高いジャンルになっています。現代では、尺八や筝との合奏もあり、より音楽性が高くなってきています。平家物語は聞くだけでも楽しめますが、事前に物語を知っておき、文言の意味を予め理解しておくと、より深く楽しめます。近代は生演奏の他に、レコードやCDも出ていますが、YouTubeの動画配信もあり、手軽に楽しめるようになっています。古(いにしえ)の芸の神髄を知り日本文化の奥深さを知るよい機会になると思います。
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