言語技能測定技術と言語教育理論③ 語彙と文法
手話技能検定試験のレベルはまず、語彙の難易度。そして次が文法です。語学において、まず語彙学習というのは常識的で、この段階までは楽しいのが普通ですが、学習者の誰もがつまづくのが文法です。文法にも難易度があるのですが、手話文法がまだよくわかっていない時代であり、そもそも文法書がないので、語彙のような頻度統計もとれません。しかし、どの手話にも「あいさつ」などは載っており、基本文が紹介されています。そこで、文を「語彙のかたまり」と考えて、いろいろな手話書から、語彙の場合と同じように頻度統計を取ることを考えました。英会話でも、chunkと呼ばれる、語句や文を1つのかたまりとして覚えるという手法が採られています。文法など無視して、かたまりごと、何度も復唱して「自然に口に出るようにする」という意外に古典的でアナログな方法が一番効果がある、ということです。これが伝統的な自然な方法、ナチュラル・アプローチです。手話でも、同じ効果があることが予想されるので、基本語彙が学習できた段階で、語の組み合わせである「基本文」のテストをします。この時、大切なことは、下の級で学習した語彙だけで構成された文であることが重要です。初出の語が出ると、学習者は戸惑います。また、文例には一定の型、パターンがあります。いわゆる文型です。英語の五文型のような単純な文法ではなく、単語を入れ替えると実用性が高まる文型です。たとえば「私の兄は先生です」という文型では、「私」を「彼」などに入れ替える、「兄」を「母」に入れ替える、あるいは「先生」を「銀行員」に入れ替える、などをすれば応用範囲は広がります。入れ替えはどんな語でもできるというわけではありません。「私」は「彼」や「あの人」のような「主語となる人称代名詞」などです。「兄」や「母」は「親族名称」です。「先生」や「銀行員」は「職業」です。こういう意味の分類を意味範疇、意味カテゴリといいます。学習者は覚える必要がないのですが、教育者はこうした文法の基礎を理解しておく必要があり、辞書作成者や語学書著者は知っておくべき知識です。つまり文法というのは、学校で習った英文法や国文法のことではなく、言語のしくみのことであり、それぞれの言語ごとに、しくみが違います。手話には独自のしくみ、つまり文法があるのです。しかしそれは言語の専門家にだけ必要な知識であって、学習者にはなくてもいいものです。英語のchunkのように、かたまりとして覚えれば実用になり、文法知識などなくても利用できます。手話検定では、まず語彙学習から始め、次第に例文がchunkとして示され、そのchunkも難易度別に配分されている、という技法が使われています。語のかたまりの設定条件は意外に簡単で、使用頻度と語数で決まります。「あいさつ」はどの言語でもほぼ同じしくみで、1語か2語でできています。長い場合は縮約されます。たとえば、日本語の「さようなら」は「左様ならばこれにて御免つかまつります」が「正式」な表現でしょうが、その冒頭だけが使われています。日本語では、さらにサヨナラ、サイナラのように変化していきます。
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