言語技能測定技術と言語教育理論⑤ 使用語彙測定技術


コラム挿絵:手話技能検定のイメージ画像

手話技能検定試験のレベルの設定において、「理解語彙と使用語彙」という概念を用いています。下級レベルは理解語彙と簡単な文法が含まれる文型の試験です。理解語彙は上級者になると、個人差や学習経験による差が大きくなり、試験範囲の公開も困難になってきます。そこで、上級者には使用語彙の測定と文法習得を測定する必要があります。これは手話をビデオで提示して、選択肢で回答を得る、という方法では不可能です。受験者に手話表現をしてもらい、それを判定する、という試験方法になります。この「面接法」はいくつかの問題点があります。まず時間がかかります。そして、判定者による個人差があって、公平性が保証されないことです。少しでも客観性を保証するには、受験者の手話表現をビデオに撮影録画し、複数の審査員によって、判定した結果を平均化する、という手間はどうしも避けられません。また審査委員の資質にも差があり、誰にでもできるわけではなく、感情に左右されない公平な判断力が求められます。そして審査基準も共通にしておかねばなりません。1つの参考になるのが、スピーチコンテストにおける審査方法です。ここでも定まった方法があるわけではありませんが、概ね、語彙力、文法力、内容、運び方、印象、などの項目について、個別に採点し、合計点を平均化する方法が採用されています。手話検定では、課題文をその場で提示し、それをその場で翻訳することを求めています。課題文には、上級者であれば知っておくべき語彙が含まれ、手話文法が含まれるような長文が提示されます。審査員には、課題語彙が示されており、それがクリアされているか、が採点項目になっています。たとえば、そうした上級相当語彙を手話表現でなく、指文字で表現した場合は、その語彙を知らないもの、と判断します。手話にかぎらず、言語表現においてリズムが重要な要素です。実力が低いと、どうしても、途切れ途切れになる、異常にゆっくりになる、などの現象が見られますから、いわゆる「わかりにくい」表現となります。表現試験は、現在は2級と1級だけになっていて、課題文の他に、自由作文として、インプロンプト・スピーチを課しています。インプロンプト・スピーチとは本来、即席演説であり、かなり高度な表現力を必要としますが、手話検定では、課題がその場で与えられる、といった高度なものは要求せず、自由作文的な表現に留めています。設立当初は1級には、かなり高度な言語運用能力を想定し、手話による討論といった形式も採っていましたが、日本人は元々、討論には慣れていないのと、受験者が少数では、コストがかかりすぎるため、いろいろ試行錯誤の結果、現在の形に落ち着いています。言い換えると、使用能力の測定はかなり難しいということがいえます。簡単に面接で決める、という方法は、審査員の「甘さ、厳しさ」や疲労度の影響など人間的な要因が絡むため、客観的かつ公平な試験方法はなかなか見つからないのが現状です。試験技術が進めば、AIを用いる方法も考えられますが、現在は手話認識技術が追い付いていないため、当面実用は望めないと思われます。

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