手話の雑学20


手話で話す女性のイラスト

聾学校が遠くにある場合、寄宿舎に入るか、父母による送迎しか選択の余地がありません。しかし寄宿舎の運営には費用がかかることもあり、生徒数が少なくなるにつれ、廃止が進んでいます。寄宿舎には同じような環境の子供が集まっているので、そこで子供同士のコミュニケーションが起こり、それが発達したのが手話だ、という「子供間伝承説」が一時期流行りましたが、その説だと寄宿舎以前には手話がなかったことになり、そして寄宿舎が消滅した今は手話がない、ということになります。

今でも、「学校方言」というその学校で伝統化した表現や文化があります。これはどこの普通学校にもあり、それらの表現を使うことで、同窓意識という集団としての絆が強くなることも事実です。こうした学校独自の表現を「スクール・ジャーゴン」といいます。ジャーゴンというのは、専門用語や符牒(ふちょう)のような専門家同士で使う表現のことです。これは他の人には知られないように仲間内だけで用いる言語変種です。よくギョーカイ用語もジャーゴンですし、女子高生ことば、などもジャーゴンです。ジャーゴンは他人を排除することで仲間意識を高めるというコミュニケーション・ツールですから、言語には広く誰にでもわかるメッセージを伝えるという機能の他に、排他的で少数者の間のみで共有される機能もある、という両面性を理解しておきたいです。そしてそれらも言語変種となっています。

聾学校においても、寄宿舎制度があった頃には学校方言があり、それが現在の手話方言の元になっているという現象もあります。たとえば県に2つの聾学校があった場合、それぞれに方言があり、聾者が集まった時の話題のネタになることがよくあります。言い換えると、学校方言が地域方言へと進化したことになります。つまり学校手話はジャーゴンであるといえます。学校手話は特定の世代だけのこともありますが、学校単位になると、先輩から後輩へと「伝承」されていきます。この伝承というのも言語の特徴の1つです。

伝承とか伝統というと、文物や芸能だけに目が行きがちですが、言語も伝承であり伝統です。また伝統という表現がなんとなく、美的な感覚や貴重さという面にのみ注目が行きますが、実は残ったものは一部で、当時の文化から捨てられて忘れ去られたものが多数存在します。言語でいえば「死語」です。とくに言語は「新しもの好き」な傾向が強く、人は新しい表現に好奇心が向かい、使用したがる傾向があります。昔の表現は「古臭い」と思われがちです。それでも長い年月が経つと、消滅したと思われていた文化が復活し、重宝されることもあります。こうした「価値観の揺れ」が言語の場合、とくに顕著で、しかも文物や芸能のように形に残ることが少ないので、復活はむずかしいです。文献などに残っているものは、ほんの一部で、一般に口語が残ることはありません。ただ近年になって録音が発達したので、将来は音声資料も文化的伝統として利用されるようになることでしょう。手話も録画が普及したので、将来は文化として残るでしょうが、現状は古い手話は復元できません。

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