手話の雑学44

たとえ昔嫌いだったとしても、必要があって、文法を再学習するためには、改めて文法研究とは何かという視点から文法研究史を眺めてみます。これは単なる知識ですから、忘れても何の問題もありません。試験にも出ませんから、安心してください。まあ教養の一部として、欧米の考え方を知るための手立ての1つと思っていただくのがよいです。
古代は哲学としての文法研究でした。文法研究の出発点は古代ギリシャです。プラトンやアリストテレスが「言葉と思考の関係」を考え、紀元前2世紀ごろにはアレクサンドリアの学者たちが文法を体系化しました。その後、ローマの文法家がギリシャ語の分析をラテン語に応用し、「主語」「述語」「名詞」「動詞」といった概念を整えました。これがヨーロッパ文法の基礎になります。この概念は今も続いていますから、手話文法において、説明が必要になるのがこの部分です。
中世における文法研究は宗教と深い関係があります。中世ヨーロッパでは、文法は「ラテン語を正しく読むための技術」として、聖書解釈や神学の補助学問でした。一方、インドではパーニニ(紀元前4世紀)が『アシュターディヤーイー』という驚異的に精密なサンスクリット文法書を作っており、これは現代の言語学でも「形式文法の祖」と呼ばれるほどの理論性を持っていました。つまり、文法に論理性が求められました。この論理性がなかなか理解できないハードルの1つです。論理性は直観的に受け入れにくいのです。
近代になると比較文法が登場しました。18〜19世紀になると、学者たちはヨーロッパ諸語とサンスクリットの類似性に気づき、「印欧語族」という概念が生まれます。ここから言語の歴史的関係を探る「比較文法学」が誕生します。言語が進化し、規則的に変化することが発見されたのです。たとえば、英語の father とラテン語の pater の関係を説明できるようになりました。
20世紀は構造主義から生成文法という文法研究において画期的な転換点がありました。20世紀前半、スイスの言語学者ソシュールが「言語は体系(structure)である」と主張し、「構造主義言語学」が発展します。その後、アメリカのノーム・チョムスキーが「生成文法」を提唱しました。彼は「文を作る能力は人間の心に備わった構造だ」と考え、文法を「人間の思考装置の一部」として研究する方向を開いたのです。ここで言語学は哲学・心理学・脳科学と深く結びつきます。これが手話文法研究にも大きな影響を与え、アメリカ手話学が発展した理由です。日本の手話学はその影響下にあります。
現代では、コーパスとAIによる文法研究の時代です。今日では、文法研究は大量の言語データ(コーパス)と統計的手法、さらにはAIによる自然言語処理と融合しています。機械学習モデルが人間の文法感覚を模倣する一方で、「文法とは何か」という古くて新しい問いが再び注目されています。つまり、プラトンの「言葉と心の関係」という出発点が、21世紀の人工知能研究につながっているのです。日本の手話研究はまだそこまで追いついていませんが、世界の潮流としては、その傾向の研究が増えており、「手話アーカイブ」が公開されています。
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