手話の雑学71

音象徴を深追いすると、言語の根っこに潜む「世界をどう切り取るか」という哲学的テーマが顔を出します。やがて、子どもがどのように語を獲得するのか、詩や文学でなぜ言葉が鮮やかに響くのか、さらにはAIが生成する言語に象徴性を持ち込めるのか、という広い領域へもつながっていきます。言葉の音に宿るイメージという小さな窓は、言語と認知の風景全体を見渡す展望台にもなるのです。その点では、手話の「音象徴」は何かという課題が出てきます。
音象徴という現象は古くから指摘されてきたのですが、言語学の世界では、「音素は意味をもたない」という定義が固まっており、その定義から逸脱する「意味をもつ音素」の存在はずっと「影の存在」でした。いわば専門家の間でも「ないこと」になっていたのです。しかし、日本語のように、擬音語や擬態語が多い言語において、まったく無視というわけにもいかず、「身振りのようなもの」とか、「言語と非言語の中間的存在」といった「継子(ままこ)扱い」で、「まともな学者は取り扱わない」という雰囲気が今も続いています。しかし、こういうスキマにこそ真実が隠れていることが多いものです。そこでまず現状の分析を紹介します。
1.擬音語
音そのものをまねたことばです。犬が「ワンワン」、雨が「ザーザー」、ドアが「ガチャ」というように物理的に耳で聞こえる音を模写しており、いちばん素朴な模倣の領域にあります。
日本語の特徴として、擬音語が多様な語形変化を持つ点が面白いです。たとえば「ドンドン」と「ドンドーン」では強さが変わり、「カリッ」と「カリカリ」では質感が変わる。音象徴(sの研究でも、日本語は声と意味の対応が比較的強い言語としてよく登場します。
2.擬態語
音がない現象や状態を、音にして表すことばです。「きらきら」「もじもじ」「しんみり」「のっそり」のように、実際には音が鳴っていないのに、音のような語形で雰囲気や様子を描くのが擬態語です。この領域がもっとも日本語らしいと言われます。特に感情の微細な揺れを、「しょんぼり」「わくわく」「いらいら」といったかたちで切り出せる。人間の内側の感覚を、外側から見える振る舞いのように言葉化してしまうのが実に巧みです。
3.オノマトペ(onomatopoeia)
学術用語としての「オノマトペ」は、擬音語と擬態語をまとめた総称として使われます。
ただし日本語の研究では、文脈によって「擬声語・擬音語系(音を表すもの)」と「擬態語系(状態・様態)」を区別したり、あるいは全部ひっくるめてオノマトペと呼んだり、用語のゆらぎがあります。他言語でもオノマトペは存在しますが、日本語のように文法的に扱いやすく、活用したり、助詞と自由に結びついたりする例は比較的少ないです。
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