正月三日


十三夜の月のイラスト

正月三日は、元日や二日に比べると行事の数も少なく、どこか影が薄い存在に見えます。しかし、だからこそ三日には「三日だけの役割」が与えられてきました。祝祭と日常の境目に置かれた、静かな節目の日――それが正月三日です。

三日を代表する風習として、まず挙げられるのが「三日とろろ」です。あまり知られていないかもしれませんが、正月三日の朝に、とろろ芋を食べる習わしで、主に関東から東日本にかけて伝えられてきました。おせち料理や餅が続いた胃腸を休め、滋養を補うという現実的な理由が第一にありますが、白いとろろを食べることで身を清める、粘りのある芋にあやかって一年を粘り強く過ごす、といった象徴的な意味も重ねられてきました。元日や二日ではなく、三日目に食べるという点がこの風習の核心です。祝う食から整える食へ、食卓の役割が切り替わる瞬間が三日なのです。昔はこういう細やかな健康に気遣う習慣があったのです。

次に注目したいのが「三日正月(みっかしょうがつ)」という考え方です。これは特定の儀式名ではありませんが、「正月は三日まで」という時間感覚を示す言葉です。門松やしめ飾りはまだ残り、年神様も滞在していると考えられていましたが、祝いの中心は三日で一区切りとされました。四日からは仕事始めや日常の準備に入るため、三日は祝祭の終点であり、同時に日常への助走期間でもあったのです。この「三日までが正月」という意識そのものが、三日だけに付与された文化的意味と言えるでしょう。この習慣は現代にも引き継がれています。

地域によっては、正月三日に「三日市」や「初市」が立つ例も見られます。城下町や港町など、人と物の往来が盛んな土地に多く、年初の商いを三日から始めるという発想がありました。元日・二日は神を迎え、家の内を整える日です。三日になって初めて、人の営みである商売が動き出すという、この切り分けが、三日市という形で可視化されています。名称に「三日」が入る点からも、三日限定の性格がはっきりしています。

また、家制度が色濃かった時代には、年始回りは三日までに済ませるという暗黙の了解もありました。本家や目上の親族への挨拶は三日で一区切りとし、それ以降は無礼にあたる、あるいは正月の外と見なされることもありました。これも三日が「終わりの線」を引く日であったことを示しています。初詣も本来は三日までです。

こうして見ると、正月三日は華やかな祝祭の日ではありません。むしろ、祝うことと働くこと、非日常と日常のあいだに置かれた調整の日です。三日とろろに象徴されるように、身体を整え、気持ちを切り替え、社会生活へ戻る準備をする――その静かな役割こそが、三日だけに与えられた意味なのです。正月の知恵は、喧噪の元日ではなく、少し落ち着いた三日目に、そっと姿を現します。こういう調整の期間という考えは今も重要です。

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