日本史と世界史で読み解く 北米建国物語 第5回 元禄文化とニューイングランド

― 江戸の町人文化と、北米植民地の「知の社会」 ―
17世紀後半、日本では江戸時代が成熟期を迎えていました。
徳川幕府による政治的な安定が続き、戦国時代のような大規模な戦争はほとんどありません。農業生産が増え、全国を結ぶ交通網が整備され、商品が盛んに流通するようになりました。そして、都市に暮らす人々の間から、新しい文化が生まれます。それが「元禄文化」です。井原西鶴、松尾芭蕉、近松門左衛門、菱川師宣など、現在でも知られる人物が活躍した時代です。
では、同じ頃、北米ではどのような文化が育っていたのでしょうか。
この時期の北米では、特にニューイングランドを中心に、学校、教会、新聞、印刷所などが発達していました。日本では「町人文化」が花開き、北米では「読み書きと宗教を重視する社会」が形成されていたのです。
一見するとまったく違う二つの文化ですが、その背景には、17世紀の社会が安定し、商業や都市生活が発達したという共通点がありました。
・元禄時代、日本は「戦争のない社会」になっていた
元禄文化を理解するためには、まず江戸時代の平和を考える必要があります。1600年の関ヶ原の戦い、1603年の江戸幕府成立から約90年。元禄時代になると、徳川政権はすっかり定着していました。戦国大名が領土を奪い合う時代は終わり、武士は戦場ではなく行政や政治を担うようになります。農民は農業を続け、商人は商品を売り、職人は都市で仕事をします。もちろん身分制度は厳格でしたが、社会全体としては長期間の平和が維持されました。この平和が、文化を育てる大きな土台となります。
・江戸・大阪・京都が文化の中心になる
この時代、特に重要だったのが三つの都市です。江戸、大阪(大坂、上方)、京です。江戸は政治の中心。大阪は「天下の台所」と呼ばれる経済の中心。京は伝統文化と工芸の中心でした。この三都市を大量の人と商品が行き交います。米、酒、醤油、木綿、魚、紙、陶器など、さまざまな商品が流通しました。経済が活発になると、人々は生活に必要なものだけではなく、「楽しみ」のためにもお金を使うようになります。芝居。本、絵画、旅、料理、衣服などが消費されます。こうして都市の消費文化が発達しました。
・井原西鶴が描いた「普通の人々」
元禄文化を代表する作家の一人が井原西鶴です。『好色一代男』などの作品では、武士や貴族だけではなく、商人や町人など都市で暮らす人々の生活が描かれました。これは、それまでの文学とは大きく異なる特徴です。
・「歴史の主人公は武士や貴族だけではない。」
そんな感覚が文化の中に現れてきたのです。大阪を中心とする商人社会では、商売で成功すること、信用を守ること、財産を築くことなどが重要になりました。文化の担い手も武士だけではありません。町人が文化を消費し、そして文化そのものを支えるようになったのです。
・松尾芭蕉と「旅」の文化
同じ時代、松尾芭蕉が活躍します。『おくのほそ道』で知られる芭蕉は、江戸から東北地方へ長い旅をしました。当時の旅は、現代の観光旅行とは違います。道路は整備されていましたが、旅には危険もありました。それでも、人々は寺社参詣や湯治、商用などで各地を移動しました。江戸時代の交通網が整備されたことで、「旅をする文化」が発展したのです。これは後の出版文化とも結びつきます。各地の名所や名物を紹介する本が出版され、人々は「知らない場所へ行ってみたい」と考えるようになりました。
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