睦月の異名
2月28日は旧暦1月28日。今年はたまたま新暦2月1日が旧暦1月1日朔日なので、今月はぴったり1月遅れでしたが、その一致も今日までです。旧暦では1月30日まであるので、あと2日分が翌3月になり、新暦3月3日が旧暦の2月1日朔日となり新月になります。
1月は別名睦月であることは知られています。ではなぜ睦月というかというのは諸説あるようですが、私の好みでいえば、睦は「仲睦まじい」の睦なので、仲が良いという意味に解釈し、正月には家族みんなが集まって仲良く過ごすという月なのだと理解しています。睦まじいというと現代では夫婦や恋人のような男女間のことに限定して解釈されることが多いのですが、本来はみんなで仲良くという意味です。
今はもうほとんど歌われないのですが、昔の卒業式の定番「仰げば尊し」の二番に「互いに睦みし日頃の恩、別るる後にもやよ忘るな、身を立て名を上げやよ励めよ、今こそ別れめ、いざさらば」という個所があり、「お互いに親しくしたことの日頃の恩は別れた後も忘れないでおこうね」という意味であり、睦むは仲良くすることだとわかります。この歌は文語なので意味がわかりにくいという理由からでしょうか、だんだん歌われなくなり、代わりに世代ごとに卒業ソングが出るようになりました。ついでに解説すると「やよ」は古語で「やあ、さあ」という呼びかけの意味の間投詞。「別れめ」は「別れむ」が「こそ」の係り結びで已然形になっています。こういう古文に親しんでおくことで日本の長い伝統を学ぶことができる絶好の機会でしたが、捨ててしまったのは残念なことです。「どういう意味だろう?」という疑問が学問的好奇心の始まりです。一方で蛍の光は今でも歌われます。こちらも古語なのですが、なぜなのか不思議でなりません。我が師の恩ということがよくなかったのでしょうか。
睦月の語源解釈には稲の実を水に浸すという「実月」が転じたというのもあり農業に暦が直結していた時代を思わせます。日本にはさらに異称があり、初春月とか早緑月(さみどりづき)というのもあるそうで、日本人の敏感な季節感が反映されています。
英語のJanuaryの語源はローマ神話のJanus(ヤヌス)という両面神で門の守護神だそうです。両面神とは頭の前と後ろに顔がある奇妙な形をしている神です。門の守護神なので始まり(入口)つまり新年と終わり(出口)つまり旧年を意味しているとされ、1月に配置されたのだそうです。ローマ神話はギリシア神話と関係が深く、神のほとんどは対応していますが、このヤヌスに対応する神がギリシア神話には見当たらないのだそうですから、ローマ神話オリジナルといえます。
ヤヌス神についてはローマ神話に興味のある方以外はあまりごぞんじがなく、「ヤヌスの鏡」という漫画とそのテレビドラマ化でごぞんじの方が多いと思います。そのせいかヤヌスは二重人格のことという誤解もあるようですが、本来は二面性それも門が入口でもあり出口でもあることからきています。
物理学の世界にはヤヌス粒子というのもあるそうで説明を読んだのですがさっぱり理解できませんでした。薬学にはヤヌスキナーゼというのもあるそうで説明は理解できませんでしたが、発毛剤とか関節リウマチ、潰瘍性大腸炎の薬がそうで、ヤヌスもあちこち役に立っているのですね。
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