ヴァルプルギスの夜
4月30日はヴァルプルギスの夜の日です。この日を知っている人は北欧とドイツ北部の習慣に詳しい人です。簡単な説明としては5月1日がMay Dayでその前日の夜のことで、ハロウインや追儺とよく似た風習です。メーデーは労働者の祭典という理解が日本では広がっていますが、北欧やドイツでは春の祭典の日で、夏至祭や冬至祭の真ん中の春の日で、秋の日が11月1日でサアオインと呼ばれています。日本の春分や秋分と考え方は同じですが、日本とは気候が違うので春の始まりというか夏の始まりと冬の始まりという日にお祭りをするのです。ヴァルプルギスの本来の意味は「死者を囲い込むもの」だそうで、北欧神話の主神オーディンがルーン文字の知識を得るために死んだことを記念するものとされています。その夜は死者と生者との境が弱くなる時間なので、かがり火を焚き、生者の間を歩き回るといわれる死者と無秩序な魂を追い払います。それが翌日の光と太陽が戻るメーデー(五月祭May Fair)を祝うことにつながります。北欧のヴァイキングたちが春を祝った風習がヨーロッパに広まることでヴァルプルギスの夜の祭りとなったそうです。
ドイツの伝承ではヴァルプルギスの夜は魔女たちがブロッケン山で集い彼らの神々とお祭り騒ぎをすることになっているそうで、ブロッケンというのはあのブロッケン現象の由来になった山の名前です。ブロッケン山は中央ドイツ北部にあるハルツ山地の最高峰でブロッケン現象による自然現象と魔女の酒宴がヴァルプルギスの夜に催されることで有名になりました。ちなみにブロッケン現象とは見る人の影の周りに虹に似た輪が現れる現象で最初にこの自然現象が報告されたのがブロッケン山なので、この名前があります。日本でも見られる気象で、ご来迎とは本来、こういう環状の虹が見えることをいいます。
ゲーテの『ファウスト 第一部』での場面は「ヴァルプルギスの夜」と呼ばれ、第二部での場面は「古典的ヴァルプルギスの夜」と呼ばれています。それを下敷きにしたメンデルスゾーンの『最初のワルプルギスの夜』という楽曲もあります。ドイツでは知られた習慣なので、アドルフ・ヒトラーとヨーゼフ・ゲッベルスらの側近数名は1945年の4月30日から5月1日にかけてのヴァルプルギスの夜に自殺しているそうです。ヒトラーらがその日は悪魔崇拝のうえで重要な日であると信じていたからだという説もあります。
現代のヴァルプルギスの夜はどちらかというと酒を呑んで大騒ぎをする感じです。焚火をあちこちで焚くので異様な興奮があるのでしょう。フィンランドではアルコールの消費量が異様に多く、また大学生たちが下品ないたずらをするようです。翌日の五月祭は家族でピクニックといった健康的な娯楽中心なのですが、一部の学生たちは徹夜でバカ騒ぎをして翌日まで持ち越すということもあるようです。日本でも昔は春の花見で酒を呑んで騒ぎ、喧嘩するようなことがよくありました。前日から騒ぐことはなかったですが、冬の我慢の季節が過ぎて開放的になるのは古今東西同じなのかもしれません。
フィンランドの隣国エストニアではドイツ文化の影響からヴァルプルギスの夜は魔女の会合と酒宴の夜であると考えられていて、現在も一部の人々は魔女の出で立ちに着替えてカーニヴァルの雰囲気を漂わせて街頭に繰り出すのはハロウインと同じです。
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