考古学
明治10年(1877)6月18日アメリカの動物学者エドワード・S・モース(Edward Sylvester Morse、1838~1925年)博士が来日しました。モース博士は貝の研究をしていたのですが、翌日の6月19日、博士が汽車で横浜駅から新橋駅へ向かう途中で貝殻が堆積しているのを発見し、これが後に彼によって発掘調査が行われる大森貝塚でした。この大森貝塚において貝殻や土器、土偶、石斧、石鏃、鹿・鯨の骨片、人骨片などを発掘しました。この発掘調査は日本で初めて行われた科学的な発掘調査で、日本の考古学の出発点となったのを記念して6月18日を考古学の日としています。
このエピソードは教科書でも習うのですが、実は考古学(archeology)は国によって内容が違います。日本で有名なのはテレビのせいでピラミッドなどのエジプト考古学ですが、似たような分野に人類学や歴史学、先史学があります。アメリカでは考古学は人類学の一部であるという見解が主流ですが、日本では歴史学の一分野とみなされる傾向にあり、記録文書にもとづく文献学的方法を補うかたちで発掘資料をもとに歴史研究をおこなう学問と考えられてきました。日本の歴史学は文献中心です。ヨーロッパでは伝統的に先史時代を考古学的に研究する「先史学」という学問領域があり、歴史学や人類学とは関連をもちながらも統合された学問分野として独立しています。考古学の定義は人類が残した物質文化の痕跡(例えば遺跡から出土した遺構などの資料)の研究を通して人類の活動とその変化を研究する学問とされていて、それに対して、歴史学は文字による記録・文献に基づく研究を行うということなのですが、文献か物質かの優先順位が日本と欧米では違っています。日本は古くからの文献も多く、古代中国の文献なども参照できるため、文献歴史学が伝統となっていますが、欧米では文献のない時代からの物的証拠が多いため、先史学は文献のない時代の歴史という考え方をしています。また文献の中には筆者の想像が入っていることも多く、神話学との関係もあって、考古学は物的証拠優先です。歴史historyはhis-storyと揶揄されるように権力者の都合に合わせて書かれることも多いという事情もあります。有名なトロイアを発掘したシュリーマンのようにギリシア神話は単なる作り話と思われていたものを物的証拠で実在を示したことは偉業なのです。
日本でも邪馬台国や高天原などがどこなのか論争がありますが、考古学的な証拠がないと決着がつきません。欧米では聖書の記述がどこまで真実なのか、ノアの箱舟の発掘やアララト山の特定、キリストの骸布など今でも謎とされて各地で研究が行われています。
文献には文字の発達という決定的な制約がありますが物的証拠にも制約があります。どこに埋まっているのか、本当に存在するのかが結果をみないとわかりません。中には盗掘によるもの、偽物、捏造もありますから、鑑定技術も必要です。現代はいろいろな科学技術を使って探査する方法がありますが、探査地域は文献から推測するしかないのが実情です。一方で、恐竜の骨などのように偶然発見されて定説がひっくり返ることもよく起こります。最近は宇宙考古学なる分野も出てきて、地球外の歴史を探査しようとする研究も進化しつつあります。未来は調査できないのですが、過去からいろいろ推定できるようになってきました。
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