名前の重要性
人間は名前がないと物の認識ができない、とされています。草花も名前を知らないうちは雑草ですが、名前を知ると識別ができるようになり、愛でる気持ちになります。動物にも個体別に名前をつけることで親近感がわきますから、ペットには個別の名前をつけます。空の星も星座名を知らなければ、光の点でしかありません。
名前は人が付けます。そこに名づける人の意図が反映されます。専門用語も名前の一種ですが、専門家だけがわかるように、一般人にはわからないような形にします。それが符牒です。職人の符牒や専門用語はわざと一般用語と区別できるようにしていますから、一般人は学習しないとわからないのは当然です。
たとえばドアの留め具でチョーバンというのがあります。開閉する扉を柱に止める金具で、誰もが目にしますが、名前を知っている人は少ないかもしれません。本来は蝶番(ちょうつがい)といい、蝶々の雄雌のペア、つまり番(つがい)が名前の由来です。確かに蝶々の形に似ていますね。大工が教養がなかったせいか、符牒にしたかったのかはわかりませんが、これをチョーバンと読むようになり、漢字も同音の別字に変えて丁番というようになりました。それで今でもホームセンターなどでは丁番として売っていることが多いです。そのせいか一般人が知るようになり、最近はヒンジという英語名を使うこともあります。物としては同じもので、機能も同じ商品なのですが、名前だけが次々に替わっていったのは、符牒という専門用語としての機能を保つためといえます。
専門用語は一般人には意味がわからないようにするため、外来語が使われたり、頭韻語が使われるのは今でもあります。漢語は昔は知識人の常識でしたが、最近は知識人も英語しかわからなくなったせいか、わざと漢語の専門用語を残していく傾向もあります。医学用語や法律用語はその傾向が顕著です。英語の場合も原語はラテン語であるため、英米人でも意味がわかりにくいのが専門用語です。そのため頭韻語を解体して英語に戻しても意味がほぼわからない状態になります。典型例がDNAでしょうか。deoxyribonucleic acidといわれても意味不明です。日本語に訳してデオキシリボ核酸といわれても、状況はかわりません。そもそも核酸がわかりません。あとはカタカナの羅列なので想像の使用がありません。DNAという略語が浸透しており、化学構造は知らなくても「意味」として、遺伝情報をもったらせん状の結合体というのは知っています。とくに遺伝情報ということについては普及しています。よく似たものにRNAというのがありリボ核酸と訳されています。こちらはそれほど普及していませんでしたが、コロナウイルス用ワクチンの報道の中でmRNAが広がりました。しかし最初がなぜ小文字mなのかはほぼ報道されませんでした。
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