間違った命名
人が物に名前をつける時、植物や動物の和名はなんとなくイメージができたりするのは、何かに例えていることが多いです。中にはニセ○○とか○○モドキとか可哀そうな名前のこともあります。またイヌ○○のように犬が可哀そうな場合もあります。
たとえができない場合、つまり初めてみるような物の場合は困ります。外国探検中の時は現地人に物を指差して??のような表情でたずねることになります。この時、こちらが指している物と相手が認識した物が違っていることもあります。こうした誤認、誤借用の例は植民地開拓時代に頻繁に起こりました。今やオーストラリアの名物とされているカンガルーもその例です。スペイン人がアメリカ大陸探検中にもいろいろありました。今では一般名詞になっているトマト、ポテト、タバコは英語で書くとtomato, potato, tobaccoとなり、日本語では別々の母音ですが、スペイン語ではo-a-oとなっており、日本語で考えるなら、ホニャララというような適当な音が配分されています。つまりスペイン人は現地音が聞き取れなかったので、適当な音をつけて本国で得意になって紹介したことに始まります。従って当初はトマト、ポタト、トバコでした。それが英語に入る時、トメイト、ポテイト、トバコと変化し、さらに日本語に入る段階で、トマト、ポテト、タバコと変化しました。無論、一人の人が聴いたなら状況は違っていたと思いますが、入ってきた時期の違い、聞いた人の違いがあって、別々の語になっていき定着しました。
日本語でも同様な勘違いがあります。幕末の頃、ある飾り職人(金属加工業)がその頃話題であった英国商人の館を見に横浜に行きました。そこで彼は壁に取り付けてあった真鍮のランプのデザインに興味があり、通りかかった英国人に、ランプを指差して「あれは何?」と聞きました。英国人は指差した方向を見て「Bricks」と答えました。英国人はレンガ塀のことだと思ったのでした。聞いた職人は「あれはブリキというのだ」と思い込み、以来、真鍮製品をブリキと呼ぶようになりました。ブリキは今日では鉄板をスズメッキしたものをいいます。似たような鉄板メッキでトタンというのは亜鉛メッキしたものです。このブリキ語源は俗説らしく、オランダ語のblikつまり鉄板から来たという説が信用されているようです。
語源説の真偽はともかく、ここでの議論は指差した先の物は指した人と見た人では認識が違うことがしばしばあるということです。そしてその認識の違いのまま命名が行われることがしばしばあるという事実です。そして命名された途端に、その物の名が固定されて広がっていく、ということです。ある程度広がってくると、その物に別の意味をもたせたい場合、たとえば特定の集団においてのみ通用するようにさせたい場合には、符牒という形で別の名前が付けられます。その場合でも元の語との連想がある程度できる範囲で変形が行われるということです。
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