表情の不思議
ジェスチャーに含める人もいますが、NVC(非言語伝達)の重要な要素に表情があります。表情は感情が自然に表出されるものなのですが、接客などのビジネスの場では意図的に表情を利用することがしばしばあります。笑顔smileは誰にも好感が持たれるということで、接客の場では挨拶と共に笑顔が示されます。英会話練習において、日本ではそれほど指導されませんが、本当は出会った最初にHi!と言った後にsmileするのがマナーのようになっています。とくに他民族社会においては、出会いの緊張感を緩和するために重要と考えられており、若い女性とくに10代の女性が「もっとも美しく見える角度」を鏡で研究し、smileを見せるのがmake upと並ぶ重要な化粧の1つとされています。今はfeminismが強くなって、媚びるような表情は避けられているかもしれませんが、女性だけでなく男性でも仏頂面よりは笑顔がよいのは共通で、挨拶のマナーの1つとして自然に出るよう練習する人もいます。政治家にとってはとくに重要で、演説の最初や最後は笑顔で締めくくることが当たり前ですが、テレビで見るかぎり、日本の政治家はしかめ面か仏頂面がほとんどです。もしくは極端なへらへら笑い、照れ隠しがほとんどです。笑顔だけみても、文化の違いは大きく、その違いは社会環境に影響されているかもしれません。他民族国家では、初対面の相手は敵かもしれず、いつ攻撃されるかわからないので、まず緊張を解くため、笑顔で挨拶し、握手をするという習慣があります。ほぼ意識されることはなく、自然にそうなります。日本ではいきなり敵に遭遇することは少ないので、むしろ真面目な表情で、会釈することがマナーのように思われています。日本人がいきなり笑顔で握手をしてきたら、かえって警戒するのではないでしょうか。むしろ会釈して相手を見るだけの距離がある方が安心感があります。
表情として人類共通なのが、笑顔以外に怒りの表情、悲しみの表情、驚きの表情があります。日本語では喜怒哀楽といいますが、ここに驚愕が入っていないのは不思議です。人間の表情の研究者は約50種類の表情があるといいますが、実際、50を識別して、使い分けている人はまずないと思います。表情を記号で表記した顔文字を見ると、カテゴリーとして、泣き顔、笑顔、嬉しい、焦ってる、などが示されていますから、抽象的な認識としてのカテゴリーはそれほど多くないと推定されます。絵文字の顔では、涙や手、コトバなどの記号を付加して再分化しており、こうした補助記号なしの顔だけだとそれほど多くはありません。表情から読み取れる情報は一般に思われているより少ないといえます。そして民族というか文化の違いが大きく反映しています。
人間以外の動物では、あまり表情が見られません。ペットなど身近に行動が観察できる場合はある程度、感情や体調などがわかるかもしれませんが、表情がはっきりしない動物も多く、その表情も人間から類推しているだけで、本当の感情表現かどうかは不明のままです。
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