においの不思議
普段、あまり注目されませんが、視覚や聴覚の他に、嗅覚もコミュニケーションに使われます。ただジェスチャーや表情、音調とは異なり、人間が意図的に発することがほぼできないので、コミュニケーション手段とは思われないようです。
においは好感がある場合を香り、アロマとされ、よくないにおいを臭いとして区別します。人間の場合は嗅覚はかなり退化していますが、動物は優れた嗅覚をもっており、敵と仲間の識別や、雌雄の判別、食べられるものと毒物の識別など、嗅覚を利用する場面が多いです。自分の意思としてにおいを出せるのは尿や便なので、縄張りを示すためのマーキングに排尿を利用しています。
人間はこうしたマーキングができないため、香料を使用してコミュニケーションに利用しています。欧米では体臭と香水の香りを混ぜて自己の存在を示すこともあります。日本では悪臭を消すために香料を用いることが多く、トイレや自動車の車内の「ニオイ消し」、洗濯物の生乾きによる細菌臭消しに洗剤に香料を入れたりします。多くの場合、香りとして好まれる植物の匂いが加えられます。
古来、日本文化では抹香の香りから始まり、香木の煙を衣服に焚き染めたり、香道という香りを当てる技術を競う芸道までありました。
現時点で、視覚情報や聴覚情報の伝達は盛んですが、嗅覚情報が伝達される手段は稀有です。匂いセンサーで嗅覚情報を得る技術はすでに確立されており、香りの成分の分析もできていて、発生させることもできるのですが、まだ情報伝達までには至っていません。むしろ嗅覚より先に触覚情報が先行しています。
においも文化の影響が強く、好まれる匂いに差があります。とくに食べ物の匂いについては、好き嫌いが分かれます。鰻の蒲焼の匂いは好きな日本人が多いのですが、醤油の焦げた匂いは欧米ではあまり好まれません。しかし、おいしさという感覚は味覚だけでなく嗅覚が大きく作用していることがわかっています。食べ物は文化の反映ですから、そこから二次的に匂いの文化が発達していったことが推測されます。
海外旅行すると空港の匂いが違うことに気が付きます。これは実際には清掃時の洗剤の匂いの影響が強いのですが、周辺の食べもの屋の匂いの影響もあるかもしれません。また空気そのものにも匂いがあり、その土地の植物が発する匂いがかなり混ざっています。匂いの文化があることは昔から知られていて、香料なども発達しているのですが、なぜか非言語情報として利用されることが少ないことには理由があるのかもしれません。
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