話し言葉は離散する
毎度、用語が難しそうで恐縮ですが、要するに話し言葉は発したその時点で、一気に広がり、元には戻らない、ということです。最近は情報の拡散という表現がよく使われますが、似たような意味です。インターネットの情報は拡散する時、文字とか動画という不揮発性情報として広がるので、同じものが広がります。しかし話し言葉の場合、揮発性なので聞き手の受け取り方、理解のしかたにより、記憶がばらばらで、ほとんどの場合、話し手の意図や意味とは違う意味に理解されます。それで情報の拡散とは別に「離散」という表現にすることにしました。
インターネット情報でも、受け手の取り方は一様ではないですが、アーカイブとして残るので、再現が可能で、検証もできます。しかし話し言葉の場合、録音とか記述などの不揮発性情報に変換して残さないかぎり、再現はかなり困難です。いわば受け手の記憶の中にだけ残ることになります。そしてその内容は千差万別です。場合によってはまったく記憶に残らず、情報として消滅する可能性もあります。その結果、「言った、言わない」という論争が昔から絶えないわけです。
一般的にはこういう話し言葉の不揮発性と離散性という性質は負の面が強調されることが多いのですが、話し言葉の場合、音調などにより個性や感情表現が多く含まれます。これらの情報は非言語情報として、書き言葉になると捨て去られます。逆に書き言葉でも口頭で読まれると、そこに読み手の個人情報や感情情報が含まれます。
コミュニケーションとは情報の伝達といわれますが、これは言語情報だけではなく、非言語情報の伝達も含まれます。非言語情報の有無だけでいえば、話し言葉の録音や録画には非言語情報が含まれており、不揮発性ですから、拡散には便利です。近年のメディアの発達の需要の原因には、こうした非言語情報伝達が必要であることがわかっているのかもしれません。
外国語学習においても、非言語情報の重要さは理解されているのですが、学校現場では昔から書き言葉の習得だけに集中する傾向があります。しかし国際化が進むにつれて、非言語情報伝達の習得が大切なことがわかってきました。それが英会話つまり音声教育へとつながっていきました。この傾向はさらに拡大すると予想されます。
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