十五夜
10月29日は旧暦長月十五日で、十五夜です。旧暦の八月十五夜がいわゆる名月の十五夜ですが、今年は夏が長かったせいもあり、今の方が秋らしくなっていて、空も済んでおり、十五夜の月らしい雰囲気があります。月見の宴は八月十五夜にするのが本来ですが、こういう行事は固定的に考える必要はなく、余裕ができた時に何度も楽しんでよいものだと考えています。旧暦のよいところは月齢と同じなので、朔日(ついたち)には月の始まりを祝い、満月日には月を愛でるという生活もよいものだと思っています。朔日にお祝いをする習慣は残っており、伊勢の赤福では朔日餅という特別なお菓子を販売するので、朝早く、人によっては前日から並んで買い求めます。
十五夜にちなんだ童謡がありますが、今はあまり歌われないようです。昔の情緒にあふれているので、ご紹介しておきます。まず「十五夜お月さん」です。「十五夜お月さん、ご機嫌さん。婆(ばあ)やはお暇(いとま)とりました。十五夜お月さん、妹は田舎に貰(も)られてゆきました。十五夜お月さん、母(かか)さんに、も一度私は逢いたいな」なんとも寂しい内容で悲しい旋律です。この歌の背景は大正時代で、裕福であった旧家が破産して一家離散する家がたくさんあったのです。主人公はたぶん少女で、母も亡くなり、妹も貰われていき、自分もこれから貰われていく身で、十五夜のお月さんに語り掛けているという風景なのです。
少し明るい歌としては「月」という文部省唱歌で有名です。「出た出た月が、まるい、まるい、まんまるい、盆のような月が」という歌詞はごぞんじでしょう。「盆のような」というのですから、満月です。盆は丸盆とは限らない、という屁理屈は抜きにしましょう。2番では月が隠れて、3番でまた月が出てきます。こういう月が出たり隠れたりする様を歌っているのですが、今、こういうゆったりした時間を過ごす子供はいなくなりました。スマホのメールやゲームに夢中で、のんびり月を眺めて過ごすということはなくなりました。そして目が悪くなりました。大人たちも月を見る余裕がなくなり、残業や通勤で疲労しています。果たしてこれが幸せなのか、何もなかった昔の方が幸せだったのか、と考えてしまいます。昔の生活に少しだけ戻ることは簡単です。少しだけ十五夜に試してみてはいかがでしょう。
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