軒の文化
最近の家には軒(のき)が付いていません。日本の伝統的な建物には立派な軒がついています。お寺の山門や五重の塔などは、軒が大きく出張っています。この軒の美しさが日本建築の美しさを代表している、といっても過言ではないでしょう。
ところが、最近の住宅はのっぺりした壁で、中には箱のようなデザインの家も増えています。軒がなくなった理由は、都会の家では土地が狭く、建築法上、隣地との境界からの距離を一定程度とらなくてはならないため、軒があると、その分、セットバックが必要になり、結果的に家が狭くなることが原因だそうです。建築屋さんによると、軒がなくなることで、雨が直接壁に当たるので、家が傷みやすくなる、という欠点があるそうですが、建売住宅の場合、業者は売ったらおしまい、ということで将来の問題など無視のようです。それよりも、広さがあって、間取りがゆったりすることで高く売れることの方が重要のようです。
軒は英語でeavesというのですが、専門用語であって、一般にはあまり知られていません。普通の人に「What is that?」と聞いても、おそらく屋根roofと答えるでしょう。
最近は折り畳み傘が普及したせいか、「雨宿り」をすることも少なくなりましたが、昔は突然の雨に逢った時、近くの家の軒下でしばし雨が止むのを待ちました。これが雨宿りで、そこから縁ができて、知り合いになったり、男女が仲良くなったりする、という物語がありました。軒下で雨宿りしていると、その家の人が傘を貸してくれて、その傘を返しに行くことで、縁ができるわけです。軒がなくなった今では、ビルに駆け込むしかないですから、そういう出会いもなくなってしまったわけです。あるいは渡世人の仁義の口上に「それでは、お言葉に甘えまして手前から仁義をきらせて戴ます。軒下三尺三寸借り受けましての仁義、失礼さんにござんす。」と玄関に入らず軒下で仁義を切るのが作法とされていました。いわば家の外ながら、敷地でもあったわけです。三尺三寸ですから、昔の大きな家の軒下は1mくらいあったわけです。実際はそんなに広くはなく、言葉のアヤ、大きめに言って相手を褒めているといえます。
家を数えるのに今でも一軒という言い方をしますが、玄関の軒の数で勘定していたわけです。今は軒がないので一棟というように、建物全体で数えるようになりました。
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