卯月朔日
旧暦では今日からようやく卯月に入ります。なぜウヅキというのかについては例によって諸説あるようですが、ウツギ(空木、卯木)の花が咲く頃だから、という説があります。卯の花というと豆腐のおからで作った料理の方が有名かもしれませんが、「卯の花の匂う垣根に時鳥(ホトトギス)、早も来、鳴きて、忍音(しのびね)もらす 夏は来ぬ」という有名な歌曲『夏は来ぬ』が浮びます。この歌は作詞佐佐木信綱、作曲小山作之助により1896年に発表された歌ですが、日本的な情緒がうまく表現されています。あまり知られていない二番以降も掲載しておきます。
2:さみだれの そそぐ山田に、早乙女が 裳裾(もすそ)ぬらして、玉苗(たまなえ)植うる 夏は来ぬ
3:橘(タチバナ)の 薫る軒端(のきば)の窓近く 蛍飛びかい、おこたり諌(いさ)むる 夏は来ぬ
4:楝(おうち)ちる 川べの宿の門(かど)遠く 水鶏(クイナ)声して夕月すずしき 夏は来ぬ
5:五月(さつき)やみ 蛍飛びかい、水鶏(クイナ)鳴き 卯の花咲きて、早苗(さなえ)植えわたす 夏は来ぬ
古語が多いので、子供の頃はよくわからない歌詞でしたが、大人になって意味を知ると、改めて日本の初夏の美しい光景が目に浮かびます。現実には今はもう滅多に見られない日本の原風景ですが、原風景というのはイメージであって、仮想現実(VR)といえます。VRというと未来図のようなものが多いのですが、こうしたレトロなVRもあってよいと思っています。
卯月が卯の花の咲く頃、ということは初夏です。今年はすでに夏日もあり、立夏も過ぎているので、むしろ自然な季節のうつろいといえるでしょう。卯月には「植月」が語源であるという説もあるのは、この時期に稲の田植えがあることも関係しています。歌詞2番の「早乙女が 裳裾(もすそ)ぬらして、玉苗(たまなえ)植うる」と5番の「卯の花咲きて、早苗(さなえ)植えわたす」は正に田植えのことです。昔は卯の花が咲くと、そろそろ田植えの時期だな、と思ったことでしょう。
豆腐のおからの煮ものをなぜ卯の花というかですが、おからの”から”の部分が”からっぽ”を連想させ縁起が悪いことからと、白く細かいおからをウツギの花に例えて卯の花の別名をつけたとされています。日本にはこういう縁起をかつぐ食べ物が多いですね。スルメがアタリメなどの言い換えや、正月のおせち料理はほとんどゲン担ぎ。ンのつく食べ物や最近ではテキにカツとかでステーキとトンカツとかもあるようです。難しくいえば言霊思想ということになりますが、庶民的にはゲン担ぎでよいと思います。卯月の入りには卯の花でも食べて健康になりましょう。
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