包括
最近、インクルーシブという用語が頻繁に使われるようになりました。英語のinclusiveの借用語なのですが、本来の訳語は「包括的」です。的がついているので形容詞ですから、元の日本語は「包括」です。ところが包括を和英辞典で引くとinclusivenessとなっています。英語の派生では動詞includeが形容詞になってinclusiveとなり、さらに名詞に派生してinclusiveとなったのです。
日本語は包括という名詞があって、それが包括的という形容詞になって、「包括する」という動詞に派生していきます。この派生過程を見ると、英語と日本語の特徴がわかります。英語は動詞が中心、日本語は名詞が中心となっていることです。実はこの違いがわかるだけで、英会話が格段に上達します。つまり、物事を動詞で考える習慣をつけるようにすることです。
辞書によれば日本語のインクルーシブは「インクルーシブとは、さまざまな背景を持つあらゆる人が排除されないこと、と理解することができる社会を目指す理念です。インクルーシブの理念は、ダイバーシティや教育と関連して語られることが多いキーワードで、SDGsの実現にも貢献する重要性があります。」(https://sdgs.kodansha.co.jp/news/knowledge/42229)つまりinclusiveの英語のもつ意味をかなり限定して借用していることがわかります。官製用語にはこういうミスリードが頻繁に見られます。「地域包括支援センター」も「地域に住む高齢者の生活をサポートするための相談・支援窓口」と定義されています。ここでいう「包括」がどうして高齢者の生活になるのか意味がよくわかりません。地域包括支援センターの英訳はArea Comprehensive Support Center; Local Elderly Care Management Centerと2つあります。前者は直訳なのですが、包括をcomprehensive(包括的な、広い、理解力のある、わかりのよい)としています。後者の方は役割を具体的に示しているので、むしろ日本語のネーミングより「わかりやすい」といえます。こういう用語の混乱について、どこの役所も説明がありません。正にお役所仕事で、役人の誰かが勝手に造語して、会議を通して、誰も責任をとらない体制を作り、すべての関係部署と文書に掲載します。困るのは利用者ですが、上から目線で、理解しない方が悪い、といった態度です。そして質問しても誰も回答できない、という不思議な状態のまま、事態は進んでいくわけです。高齢者の利用者の多くは包括という意味はだいたい理解できますが、インクルーシブの方はほとんど意味が連想できないと思います。まさか包括的とインクルーシブが同じ英語だとは驚きでしょう。これはいわゆる「言語マジック」です。相手が知らないことをいいことに、何かをごまかそうという意図がなければ、相手が知らない表現を使う必要がありません。カタカナ語を乱発する人は自分が知っていることを自慢することよりも、相手をごまかすことが目的ですから、そこを誤解しないことが大切です。そのためには「教えてもらう」ようにし、教えてくれないようなら信用しない、という防衛が必要です。
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