夏至


夏至に咲く花のイメージ画像

夏至(げし)は、二十四節気のひとつで、一年のうちで最も昼の長さが長くなる時期です。2025年の夏至は6月21日。日本ではちょうど田植えの時期とも重なり、農村では季節の節目として意識されてきました。

夏至は二十四節気の中でも特に天文的な意味が強い節気ですが、そこに細やかな変化を与えるのが「七十二候(しちじゅうにこう)」の存在です。七十二候とは、一年を約5日ごとに分けて自然の移ろいを表現したものです。夏至の期間にあたる七十二候には、次の三つがあります。

初候は「乃東枯(なつかれくさ かるる)」。「乃東」とは「うつぼぐさ」のこと。冬至の時期に芽吹き始め、夏至の頃に枯れるという特異な植物であり、自然の循環を象徴する存在です。太陽の光が最も強くなる時に、あえて枯れる草の姿は、自然界の陰陽のバランスを考えさせてくれます。

次候は「菖蒲華(あやめ はなさく)」。ここでいう「菖蒲」は、現在でいうハナショウブを指すとされ、田の畦道や湿地に美しく咲くその姿は、初夏の風物詩です。菖蒲は武士に好まれた花でもあり、「尚武(しょうぶ)=武を尊ぶ」にも通じる語呂合わせから、端午の節句にも登場します。花が開くこの時期は、ちょうど梅雨のさなかでもあり、湿気の中に凛と咲くその花の気高さが、人々の心に清涼をもたらしてくれます。

末候は「半夏生(はんげ しょうず)」。「半夏」とは薬草のカラスビシャクのことで、この植物が生える時期を指しますが、同時に「半夏生」は農業暦の上でも重要な日です。古来、農村ではこの日までに田植えを終えるべしとされ、終わったあとは田の神に感謝を捧げ、しばし休養を取る慣習がありました。福井県ではこの時期にタコを食べる風習があり、稲がタコの足のようにしっかり根を張るようにとの願いが込められています。

こうした七十二候に見る自然の変化は、日々の中では気づきにくい小さな兆しを、言葉という形で丁寧に捉えている点に大きな魅力があります。私たちは今、時計やカレンダーに頼って時間を認識していますが、かつての人々は太陽の高さや風の匂い、草花の開花によって季節の流れを体で感じていたのです。夏至の七十二候を味わうことは、そうした自然とのつながりを思い出させてくれます。

また、夏至は世界的にも祝祭の時期として知られています。スウェーデンやフィンランドでは「ミッドサマー」として太陽に感謝するお祭りが行われ、イギリスのストーンヘンジでは夏至の日に石の間から昇る太陽を見るために多くの人々が集まります。古今東西、人類は太陽の動きに深い関心を抱き、日々の暮らしと強く結びつけてきたのです。現代に生きる私たちは、照明や冷暖房によって自然環境に左右されにくい生活を送っています。それは便利で快適である一方、自然のリズムや季節の感覚が失われつつあるのも事実です。夏至のような節気や七十二候を意識することは、日常生活に一つのゆとりや美意識を取り戻す契機となるでしょう。夏至は「陽の極み」であると同時に、陰の気が生まれ始める転換点でもあります。七十二候に耳を澄ませながら、暦の奥にある自然のリズムに寄り添ってみることが、夏至の味わい方ですね。

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