手話の雑学23


手話で話す女性のイラスト

手話は、日本語との接触が急激に増大し、日本語の影響を受けた手話語彙や文法が急増しました。それがいわゆる「日本語対応手話」であり、「日本英語」になぞらえるなら、「日本語手話」という言語変種を形成していることになります。よく似た表現ですが、「日本手話」ではないことに注意してください。この言語変種は手話の変種であって、日本語の変種ではないのですが、「日本語対応手話は日本語だ」という誤った認識の人もいます。日本英語が英語の変種であって、日本語の変種ではないのと同じことです。日本英語が英米の英語とは違うという主張は正しいのですが、英語ではない、という主張は誤りです。まして「正しい英語ではない」という主張は19世紀の植民地主義の偏見と同じで、混淆語を低く見る差別的な考えといえます。ただ残念なことに、日本では未だにこういう主張をする人が英語教育者に見られます。同じことが手話教育現場にもあって、手話を教える人の中には「日本語手話(日本語対応手話)は間違った手話」という人もいます。これは日本人の偏狭性、非寛容性が強いという最近の文化が起因しているかもしれません。

では、日本手話とは何か、というと、「日本に存在する手話の総体」という定義ができます。アメリカにはアメリカ手話、フランスにはフランス手話、デンマークにはデンマーク手話のように、国ごとに手話がある、というのが定説になっています。それを根拠として、その国の「公用語の1つ」として、手話を制定している国もあります。もっとも、法律で定めなくても、手話は「実態として存在する」のですから、公用語として制定するか、しないか、はその国の事情によります。たとえば、アメリカは英語が支配的な共通言語ですが、国(連邦)としての規定はなく、州ごとに決めることになっていますが、どの州も英語を公用語として規定している州はないようです。実態として、スペイン語や他の言語も多く存在しています。日本も、いわゆる国語という概念はありますが、法律的な定めはありません。「日本語を公用語とする」と明記した法律は存在しません。ただし、裁判所法第74条では「裁判所では、日本語を用いる」と規定されており、司法の場では日本語が唯一の使用言語とされています。また、学校教育法第21条第5号では「国語を正しく理解し、使用する能力を養う」とあり、この「国語」は事実上「日本語」を指しています。そして実態としては、使用者は少ないですがアイヌ語もあり、言語学的には地域方言よりも違いが大きい「沖縄語」などがあります。手話も言語として法的に制定しようという運動もあるようですが、日本語が公用語という規定がないのであれば、手話を公用語とすることは矛盾があります。そもそも、日本語が言語である、とか、アイヌ語は言語である、という法律もないので、手話は言語である、という法律は制定の根拠がありません。実態として存在していることは、今では広く知られているので、その実態に沿った運用を考えていく、というのが現実的です。そして、その実態として手話には、いろいろな変種があり、言語変種の総体として日本手話があります。

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