カリフォルニア州立大学制度 ― 「万人のための高等教育」という実験

California は、映画産業やIT企業だけでなく、高等教育の巨大な実験場としても知られています。その中心にあるのが、「カリフォルニア州立大学制度」です。日本では「カリフォルニア大学(UC)」、たとえば UC Berkeley や UC LAが有名ですが、実際に州民の教育を支えている巨大システムは、むしろCSUのほうだと言えるでしょう。CSUは現在23のキャンパスを持ち、学生数は約50万人に達します。これはアメリカ最大級の4年制大学システムです。ロサンゼルス、サンディエゴ、サクラメント、ロングビーチ、ノースリッジ(CSUN)など、州各地に広がっており、地域社会と強く結びついています。
その起源は19世紀後半の「師範学校」にあります。つまり、最初は教師養成機関だったのです。アメリカ西部への人口流入に伴い、公教育を支える教員が大量に必要になりました。その後、工学、看護、ビジネス、芸術など多くの分野へ拡大し、現在の総合大学群へ成長しました。カリフォルニアの高等教育を理解するには、1960年に策定された「高等教育マスタープラン」を知る必要があります。これは当時の州知事 Pat Brown の時代に作られた壮大な制度設計でした。この計画では、高等教育機関を三層構造に整理しました。
第一層は研究中心の「UC(カリフォルニア大学)」です。博士課程を持ち最先端研究を担います。
第二層が「CSU(州立大学)」です。こちらは主として学部教育と修士教育、そして実務的人材育成を担当します。第三層が「コミュニティカレッジ」です。地域住民に開かれた2年制教育機関で、職業教育や大学編入の役割を果たします。この構造の特徴は、「エリート教育」と「大衆教育」を分離しつつ、相互接続している点にあります。つまり、学力や経済状況に応じて段階的に教育へアクセスできるよう設計されているのです。たとえば、最初はコミュニティカレッジへ入り、そこから成績優秀者がCSUやUCへ編入する道があります。これは「やり直し」が可能な制度でもあります。一度の受験で人生が決まるわけではない。ここに、日本の受験制度との大きな違いがあります。また、CSUの重要な特徴は、「地域密着型」であることです。たとえば California State University, Long Beach は南カリフォルニア地域産業と深く結びつき、 San Diego State University は国境地域研究や観光産業との関係が強い。農業地帯の California State University, Fresno は、農業技術研究や水資源問題に取り組んでいます。つまり、CSUは単なる教育機関ではなく、「地域社会のインフラ」なのです。一方で、近年は多くの課題も抱えています。最大の問題は財政です。かつてカリフォルニア州では「公立大学は極めて安価であるべき」という理念が強く学費も非常に低額でした。しかし人口増加と州財政の圧迫により学費は徐々に上昇しています。
さらに、住宅費の高騰は学生生活を直撃しています。特に Los Angeles や San Francisco 周辺では家賃が高く、多くの学生が長距離通学やアルバイトを余儀なくされています。それでもCSUが高く評価される理由は、「社会的上昇の通路」として機能しているからでしょう。移民家庭、低所得層、第一世代大学生など、多様な背景を持つ若者たちに高等教育の機会を提供してきました。アメリカ社会の「夢」が現実に試される場所とも言えます。
日本では、大学の序列や偏差値が強く意識されがちです。しかしカリフォルニア州立大学制度は、「誰もが学ぶ権利を持つ」という思想を制度化しようとしました。もちろん完全ではありません。それでも、「教育は社会全体を支える公共財である」という理念は、今なおこの巨大な大学ネットワークの根底に流れています。広大なカリフォルニアの各地に散らばる23のキャンパスは、単なる校舎群ではありません。それは、「知識を一部の特権ではなく、多くの人へ開こう」とした、20世紀アメリカの理想そのものなのです。
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