元旦
元旦というのは元日の朝のことです。この旦という字は普段ほとんど見ることがありませんね。日が太陽、一が水平線なので、日の出の意味だそうで、分かりやすい象形文字です。元朝ともいいます。
元旦は家庭で団欒が常識ですが、江戸時代は宝船売りが回ってきた、と落語で学びました。宝船は七福神が載っている船の絵で「おたから、おたから」という売り声で売り歩いたといいます。この宝船の最古形が京都五条の松原通にある五条天神宮のものです。京都では北野天満宮が有名ですが、菅原道真の家があったのがこの五条天神宮で、あの飛梅の元の梅がここにあります。ここから大宰府まで飛んで行ったわけですね。その故事をたずねてここを参詣したのですが、宝船の原型を発見した時は感動がありました。古形は船に稲わらが一束積んであるだけの墨画のシンプルなデザインですが、普段見慣れた絢爛豪華な宝船とは異なる趣がありました。ここの宝船は節分に配布されるそうですが、訳をいえば普段でも買えるみたいでした。節分は本来、この日が新年なので、その風習が江戸に伝わって元旦の宝船売りになったと考えられます。宝船の絵を枕の下に敷いて寝ると良い初夢が見られると信じられていました。もし悪い夢を見たら、この絵を川に流して厄払いするとされていましたが、こちらの習慣は廃れてしまったようです。宝船の絵を買う習慣もほぼなくなってきています。宝船の絵には『なかきよの とおのねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな』(長き夜の 遠の睡(ねむり)の 皆目醒めざめ 波乗り船の 音の良きかな)という和歌が書かれています。意味は「調子良く進む船が海を蹴立てゆく波の音は、夜が永遠に続いてしまうのではと思うほど心地よいので、思わず眠りも覚めてしまう」というのが一般的ですが、他の解釈もあります。この歌は回文になっているので、終わりがなくて縁起がよいとも言われています。寝る前に三度唱えて寝ると良い初夢になるといういわれもあります。
正月には年賀状に賀正とか謹賀新年などと書きます。この賀という字も普段は佐賀や滋賀のような地名か、平賀のような名前にしか使わない漢字です。意味はよろこぶ、ことほぐ、いわうということなので、謹賀新年は「謹んで新年をお慶び申し上げます」ということになります。賀は慶と同じ意味です。賀正は「がしょう」と読むのが一般化していますが、本来は「がせい」と読みます。こうした祝いの言葉を賀詞といいますが、もう死語かもしれません。
初代林家三平の定番に「和尚が二人でやってきて、おしょうがツー」という何ともくだらないのがありますが、毎年これを聞いて正月だな、と思ったのも昔の話です。どうもスイマセン。おあとがよろしいようで。
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