ナチュラル・アプローチ
語学の教育法の1つとして直接法direct methodを以前にご紹介しました。近年、あちらこちらでナチュラル・アプローチという方法が紹介されるようになりました。自然接近法というネーミングがよいせいか、好感をもって受け入れられているようですが、誤解と言うか拡大解釈もなされているようです。そもそもナチュラル・アプローチは直接法の発展形ということをどのくらい理解されているのか疑問です。なにが「自然」か、というと、その対立概念は不自然あるいは人工的ということで、ナチュラル・アプローチの提唱者は「伝統法に対立する概念」と定義しています。伝統法というのは、日本語英語教育を念頭におけば、すぐに理解できますが、英文解釈や英文法といった文語の翻訳を中心とした語学教育を指します。しかしアメリカの英語教育はアメリカ国内の英語を話せない移民への語学教育が国策として存在し、Teaching English as a Foreign Language(TEFL外国語教育としての英語教育)という技法があり、そのためには文語による翻訳のような技法では口語としての英語教育はできないことから、口語英語を教育する方法として直接法を発展させ、英語環境におくことで自然に学習させる方法が必要ということで開発された技法です。技法というより、むしろ思想と考えるのが正しいです。口語英語教育技法ということで、日本で英会話を教えるには同じ技法が使えるということで、TEFLを学んだアメリカ人が日本で普及させていった手法の1つがナチュラル・アプローチです。アメリカの大学には多くの留学生が来ており、短期語学研修も多いことから、どこの大学でもTEFLの技術を教えています。これは日本の日本語教育と同じ思想です。日本では国語教育と日本語教育を分けており、日本語教育は外国人向けです。英語Englishにはそういう使い分けの表現がないため、TEFLが必要な訳です。
英語学習の自然な環境というのは、子供の言語学習を見本としています。親や周囲の人が生活の中で自然に語りかける言語を子供は習得し、それが母語となります。同じように、外国語として英語を学ぶ人にも、先生や周囲の人が英語で語りかけ、日常生活の中で英語になじんでいけば、母語といかないまでも、日常生活に不便がない程度には習得できます。そのためには学習者が英語環境にいることが重要ですが、それだけでなく、先生は一定のカリキュラムに沿って意図的に英語を使うように努力します。また教室内だけでは自然とはいえないので、外に出て街の中の生活、たとえば買い物や娯楽、医療現場や福祉現場、役所との相談など、次第に環境を広げ、言語レベルを上げていくよう工夫されたカリキュラムを用い、実際にそうした場面において補助をしながら体験させていくことが重要です。しかし日本でこの方法を応用しようとすると、教室内でシミュレーションとして指導するしかありません。完全に自然な状況ではなく、人工的に模倣したものになります。ビデオやVRを活用することは有効でしょう。ところが現実にそこまで環境を整えている例はなく教師が英語だけで話していることをナチュラルと強弁している例が多いです。
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