原子の語源と原子力
10月26日は「原子力の日」です。1964年、日本政府はこの日を「原子力の日」と定めました。この背景には、1956年10月26日、日本が国際原子力機関(IAEA)に加盟しました。原子力が平和的利用の象徴として、我が国に新たなエネルギーの可能性をもたらした記念日なのです。また、1963年のこの日は、茨城県東海村の日本原子力研究所において、日本初の原子力発電が行われました。動力試験炉(JPDR)と呼ばれるこの施設は、後に商用原子力発電の礎となりました。私たちの生活に静かな革命をもたらしたこの技術は、その後の日本のエネルギー政策に大きな影響を与えたのです。
東日本大震災の福島原子力発電所の被災以来、反原発運動が盛んになり、今もその影響があり、それが太陽光発電や風力発電推進の理由の1つにもなっています。火力発電への環境問題が背景にあり、欧米では環境政策の1つとして原子力発電があるのですが、日本は原子爆弾被害と関連づけられた反原発運動が盛んで、世界から見ると特殊な意味をもっています。一方で、近年の電力需給の急増があり、AIやEVなどの推進には電力確保が重要課題であり、不安定な自然エネルギー頼りにはできないこともあって、原子力を否定すると代替エネルギーがない、という矛盾した状態になっているのが現状です。水素やメタンハイドレートなどの研究や提案もあるのですが、まだ主流にはなっていません。
さて、「原子」(げんし)という言葉の語源ですが、これは、古代ギリシャ語の「atomos(ἄτομος)」に由来します。これは「分けることのできないもの」を意味します。この概念は、紀元前5世紀の哲学者デモクリトスによって提唱されました。彼は、物質は無限に分割できると考えましたが、ある点で分割できない最小単位が「原子」であるとしたのです。現在の原子物理学では原子はさらに細かな粒子に分割されているので、もう語義矛盾になっています。日本語で「原子」という言葉を初めて使ったのは、幕末期の日本の学者である西周です。彼は西洋の科学知識を日本に伝えるために、多くの西洋の科学用語を日本語に翻訳しました。このコラムでも頻繁に登場しますが、訳語のもつ貢献度は大きいのです。有名なアニメ「鉄腕アトム」は原子の意味ですし、10万馬力という強大なエネルギーは原子力エンジンであることが想像されます。今は馬力という表現はほとんどしませんが、1馬力は文字通り、1頭の馬の仕事量です。英仏で定義が違いますが、1馬力≒750 Wと概算されているようです。どのくらいの力かというと、軽自動車(40 - 64馬力)、四輪自動車(64 - 300馬力)、大型トラック、大型バス(250 - 600馬力)、F-4戦闘機(8万4,000馬力)、F-15戦闘機(20万馬力)、原子力空母(28万馬力)ということなので、鉄腕アトムの仕事量はF-4とF-15の間くらい、ということになります。両足に格納されているので、片足に5万馬力の超小型原子力エンジンがあることになります。しかし、現代のLE-7A(日本のH-2 に使われているロケットエンジン)は318万馬力だそうですから、液体燃料型でもすごい力です。原子力空母と比べると、鉄腕アトムはすごいですね。
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