已己巳己(いこみき)

已己巳己(いこみき)という四字熟語をごぞんじでしょうか。見てすぐわかるように、「已」「己」「巳」の3種の字形がそれぞれ似ていることから、互いによく似ているもののことを譬えて使われる語です。先頭の「已」は、「已然(いぜん)」「已来(いらい)」などの熟語があるように「い」と読みます。そして二番目の「己」は、「自己(じこ)」「利己(りこ)」などのように「こ」と読む漢字です。三番目の「巳」は、「巳年(みどし)」という言葉があるように「み」と読む漢字です。末尾の己は二番目と同じ字で干支の「つちのと」の意味で「己丑(キチュウ)」のように「き」と読みます。「こ」が呉音、「き」が漢音です。「いこみき」という熟語は、例えば、双子というのは顔がよく似ています。その中でも、周りの人からすると見分けがつかないほどよく似ている双子も存在します。このような双子は、互いに似ていて見分けがつかないので「已己巳己」と言うことができます。「已己巳己」を使う対象は、何も人に限定されるわけではありません。人間以外だと、例えば犬や木々などの動植物も当てはまります。その他には、モノや見た目、考え・文章など、互いに似ているものであればあらゆる対象に使える四字熟語ということになります。江戸時代の川柳に「已己巳己(イコミキ)のよふに廓の格子先」というのがあります。今年のNHK大河ドラマ「べらぼう」には吉原の廓の様子が描かれています。「格子先」というのは、遊郭にある遊女屋の道路に面した店先のことです。ここに格子をめぐらした部屋があり、遊女たちはならんで客を招いていたのです。「よふに」は「ように(やうに)」で、格子先にならんでいる遊女たちは「已己巳己」のようだ、つまりよく似通っているという意味です。「大して違わない」という否定的な意味もあります。しかし、夜目で見ると、どれも美しく見える、という意味も含んでいます。昔の江戸っ子はこうした川柳を楽しんでいました。似たような字形を並べた四字熟語に「烏焉魯魚(うえんろぎょ)」「魯魚亥豕(ろぎょがいし)」「魯魚章草(ろぎょしょうそう)」などがあります、これらは書き誤りやすい文字のことを指す語です。ほかに、「烏焉馬(うえんば)」という熟語もあり、これももともとは書き誤りやすい文字のことを指す語でしたが、転じて紛らわしいものをいう語としても用いられました。こうして活字にフォントにすると間違えないのですが、昔は筆で書いていましたし、くずして書くことも多かったので、間違えやすいとされていました。烏焉馬をもじって、烏亭 焉馬(うてい えんば)という人形浄瑠璃の戯作者もいました。衰退しつつあった江戸落語の再興の祖といわれています。5代目市川団十郎をもじって「立川談洲楼(たてかわだんしゅうろう)」と名乗ってみたり、狂歌において、大工道具をもじった「鑿釿言墨曲尺(のみのちょうなごんすみかね)」など、酔狂な人物でした。あの立川談志は「立川雲黒斎家元勝手居士」という戒名を自分でつけたのも、こうした酔狂の流れであったと思われます。三遊亭円生も元は「山遊亭猿笑」だったそうで、言葉遊びが落語の神髄なのでしょう。
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