米第二国家「America the Beautiful」に込められた理想と祈り

アメリカ合衆国には、多くの人々が愛唱する国民的な歌があります。その中でも「America the Beautiful(アメリカ・ザ・ビューティフル)」は、単なる愛国歌にとどまらず、自然の雄大さと人々の精神性、そして国の理想を詩的に歌い上げた名曲として、今なお多くのアメリカ人の心をとらえて離しません。それでアメリカの第二国家とも呼ばれています。
この歌が初めて世に出たのは、1894年7月22日。詩人キャサリン・リー・ベイツによる詞が、後に作曲家サミュエル・A・ワードの旋律と結びつき、今日の形に至りました。この曲の魅力は、第一にその美しい自然描写にあります。「オー・ビューティフル・フォー・スペイシャス・スカイズ(広々とした空よ、なんと美しいことか)」という冒頭の一節は、まさにアメリカの大自然への賛美です。ベイツはこの詞を、ロッキー山脈の頂から見下ろした広大な風景に感動して書いたといわれています。当時、アメリカは開拓と成長を進める一方で、産業化により都市が拡大し、自然が失われつつある時代でもありました。そうした中でこの詩は、自然への畏敬と、失ってはならない美を思い出させてくれるものだったのです。また、この歌は自然美だけでなく、国としての倫理や道徳、理想も強く訴えています。「兄弟愛に満ちた自由(liberty in law)」や「自己犠牲による偉業(who more than self their country loved)」といった言葉からは、単なる愛国心ではなく、「責任ある自由」や「他者を思いやる公共心」といった、社会を支える価値観が表現されています。ベイツはこの詩に、アメリカという国の「あるべき姿」を理想として込めていたのです。
1890年代のアメリカは、経済的には繁栄しつつありましたが、労働運動や黒人差別、移民問題など、社会の亀裂も目立ってきた時代でした。ベイツの詩は、そうした分断を超えて、共通の理想を掲げ、すべての市民が美しい祖国をともに築いていくことを願う祈りとも言えるでしょう。そのため「America the Beautiful」は、アメリカ国家「The Star-Spangled Banner(星条旗)」とは異なる精神的な意味で、多くの人々に深く愛されているのです。また、戦争の時代にもこの歌は特別な響きを持ちました。第二次世界大戦中や9.11テロ事件後、人々がこの歌を歌うことで、悲しみの中にも団結と希望を見出そうとしたことはよく知られています。国歌と違って軍事的な勝利や栄光を歌うのではなく、「美」と「善」を求める静かなメッセージが、多くのアメリカ人の心に寄り添ったのです。
このように、「America the Beautiful」はアメリカのアイデンティティを象徴する文化遺産といっても過言ではありません。今日でも独立記念日や大統領就任式、メモリアル・デーなどの行事でよく演奏されますし、学校や教会でも多く歌われています。カントリー、ゴスペル、ジャズなど様々なジャンルでアレンジされ、セリーヌ・ディオンやレイ・チャールズなど多くのアーティストによって歌い継がれてきました。
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