秋土用の入り


十五夜の月見をイメージしたイラスト

本日は秋土用(あきどよう)の入りです。暦の上で「季節の変わり目」を告げる静かな節目です。一般に「土用」と聞くと、真夏の「土用の丑の日」を思い浮かべる人が多いですが、実は土用は年に四回あります。立春・立夏・立秋・立冬の直前、つまり次の季節へ移る前の約18日間を指し、それぞれ「春土用」「夏土用」「秋土用」「冬土用」と呼ばれます。秋土用の入りは、立冬の18日前にあたる日です。この時期は、暦の上では秋の終わり、冬への入り口。空気が澄み、虫の声が静まり、木々が落葉を始めるころです。農作業では収穫の最終盤であり、同時に冬支度を整える重要な時期でもありました。昔の人々は、土用を「土の神が休む期間」と考え、この間は土を掘り返すこと、すなわち土木工事や新田の開墾、家の基礎をいじることなどを避けました。「土を犯す」と祟りがあるとされたためです。自然への畏れと共生の知恵が、このような風習を生んだのです。

「土用」という名は、「五行説」に由来します。古代中国の思想では、木・火・土・金・水の五つの要素が万物を形づくるとされ、それぞれが季節と対応していました。春は木、夏は火、秋は金、冬は水。そしてそれぞれの季節の境目を調整する役割を担うのが「土」。つまり、土用とは季節のバランスを整える「調整期間」なのです。四季をまっすぐ進むのではなく、その間に少し立ち止まって、自然の呼吸を合わせる――そんな暦の呼吸法のような意味が、そこには込められています。

秋土用の頃には、「寒さへの備え」と「夏の疲れの回復」が大切とされてきました。夏の暑さで弱った体を癒し、冬の寒気に耐えるための力を蓄える季節。食の習慣にもそれが表れます。たとえば「土用餅」や「土用蜆(しじみ)」など、滋養のある食材を摂る風習がありました。特に秋土用では、旬のきのこや根菜類を使った料理が好まれ、体を温める工夫がなされていました。

また、秋土用の時期には、気候が不安定になりやすいという特徴もあります。昼と夜の気温差が大きく、風邪をひきやすい季節の変わり目です。現代では「秋バテ」と呼ばれる体調不良もこのころに起きやすく、古人の「土用養生」の知恵がいまも通用することに驚かされます。

そして、土用の終わりの日を「土用明け」と呼びます。この日を過ぎれば、暦の上で「立冬」。冬の気配がはっきりと訪れ、霜が降り、吐く息が白くなるころです。つまり秋土用は、「秋の仕舞い」であり、「冬の準備運動」でもある。人間でいえば、深呼吸をして衣替えをするような時間です。

現代社会では、季節の移り変わりを感じる余裕が薄れがちですが、こうした暦の節目を意識することで、自分の生活にも「季節のリズム」を取り戻すことができます。秋土用の入りには、自然の声に耳を澄ませ、身の回りの整えを始めてみる――それは古来の知恵を現代に生かす、穏やかな時間の過ごし方といえるでしょう。

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