啓蟄
3月6日から20日までが二十四節気の啓蟄(けいちつ)です。ようやく春らしくなってくる頃です。春の気配を感じて、冬ごもりをしていた虫たちが活動を開始する頃を表しています。最近は昆虫食が話題になっていますが、一部を除いて、日本では昔から虫は愛でるものです。夏の蝉や夏の終わりの蟋蟀(こおろぎ)などは音(ね)を楽しむものです。虫の生を奪って食料にする、というのは食文化なのですが、日本には馴染まない食習慣だと思います。
七十二侯では初侯:蟄虫啓戸(すごもりのむしとをひらく)として啓蟄を表し、冬ごもりをしていた虫たちが戸を開いて顔を出したような表現です。虫に限らず、様々な生き物が目覚める頃です。虫が戸を開くという情景も風情がありますね。
次侯:桃始笑(ももはじめてさく)桃の蕾がほころび、花が咲き始める頃を表します。昔は花が咲くことを「笑う」「笑む」と表現していました。たしかに花がぱっと咲く様子は人の破顔一笑に似ています。
末侯:菜虫化蝶(なむしちょうとなる)青虫が羽化して紋白蝶になる頃という意味です。菜虫とは菜を食べる虫ということで、紋白蝶の幼虫をさしています。紋白蝶のほかにも、いろいろな種類の蝶が舞い始める季節です。蝶は都会にも意外とたくさんいます。
啓蟄の期間には「お水取り」と呼ばれる東大寺二月堂の修二会(しゅにえ)が行われます。奈良時代から続く行事で、春を告げる行事として有名です。大きな松明から落ちる火の粉をあびると、無病息災で過ごせるといわれています。テレビでもよく報道されます。
また雪国では冬の間、寒気や雪、害虫などから樹木を守っていた「菰(こも)巻き」を外すのも啓蟄の頃が多く、これも春の風物詩となっています。害虫は寒いとこの菰の中に逃げ込むので、この菰を燃やすと害虫退治になる、という昔の知恵です。
今年の3月6日は旧暦2月15日になり、涅槃会(ねはんえ)というお釈迦様の命日と重なります。多くの寺は新暦で涅槃会を行っていますが、旧暦を大切にする寺ではこの日に行います。有名な西行の歌「願はくは花の下にて春死なむそのきさらぎの望月の頃」とあるように、この日は望月十五夜です。同じ日に虫たちが生を表し、仏と仏教者の命日が重なるというのは何とも不思議な心地がしますし、また輪廻転生とか悉有仏性といった仏教の根本が感じられます。
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