トラックの意味
最近、ファスト・トラックという政治用語が出てきました。またしても知識不足の役人が考えた用語だと思います。彼らが念頭に置いたのは、空港の入国管理窓口などで、ビジネスクラスやファーストクラスには別の優先レーンがあり、自分がスムーズに行けた経験から、便利だと思ったことから想像したのでしょうが、エコノミーしか乗った経験のない一般人は直観的に理解できません。正に役人のエリート意識というか国民を下にみている意識が現れたものだといわざるをえません。
一般人の感覚だとファスト・トラックはfast truckつまりスピードの速い運搬自動車しか思い浮かびません。アスリートならfirst trackつまり最初の競走路という意味にとるかもしれません。役人のいうfast trackという意味がわかる人がどのくらいいるでしょうか。まして「こどもファスト・トラック」というのは意味がわかりません。「子供優先」で何か悪いのか、新しい用語を作って誤魔化そうという意図がアリアリです。役人や政治家がよからぬことを企んでいる時の常套手段ですから、用心が必要です。
ファスト(ファースト)の英語はfast、firstがあることは中学でも習いますから、速いという意味か、一番という意味か、は直観的にもわかります。しかしトラックの英語がtrcukの他にtrackというのがあることは案外知られていません。自動車のtruckは荷物運搬車で、語源のtrochusというラテン語は小さい貨物のことなので、トロッコが正にそうなのです。トロッコはたぶんフランス語から来たか、英語が訛ったものとされています。現代のような大きなトラックになったのはアメリカの文化です。日本の軽トラは正に原義に近いといえます。一方のtrackの原義は足跡で、そこから陸上のトラック、軌道、進路といった意味に広がっていきました。鉄道の一番線はTrack No.1といいますから、新幹線車内の英語案内などで聞いたことがあるかもしれません。進路という意味では、たとえば大学の終身在職権制度のことをtenure track systemといいます。日本では若手でも最初から終身雇用を前提とした専任制度がありますが、アメリカでは最初は任期のある雇用で、同じ大学で経験や実績を積むと、大学は終身雇用権を与えて確保しようとします。それまではいろいろな大学に籍を移しながら実績を積むことを強いられます。近年の日本では、この制度を悪用し、非常勤講師を増やして人件費の削減と雇用調整をするようになり、若手研究者が落ち着いて研究できる環境は激減しました。アメリカは大学教員と民間や政治家などへの流動性が高いので、こうした制度にも意味があるのですが、日本の企業はまだ雇用の流動性がないまま、大学だけアメリカの真似してみても効果があるはずがなく、かえって研究全般が衰退したのは、机上論だけの役人の欠陥が原因といえます。その欠陥がまたしても露呈したのがファスト・トラックという怪しげな用語になったいえそうです。
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