遡及的方法論


遡及

遡及(そきゅう)という表現はどちらかというと法律関係で用いられることが多いのですが、遡って物事を考えるという手法は重要です。英語ではretroactiveといいますが、retroはレトロつまり過去ということです。日本でいうレトロはどうやらretrospectionというのが起源のようです。Retrospetion は回顧と訳されることが多い単語です。そして懐古趣味という用法が多く見られます。現在だと「昭和レトロ」という昭和時代の風物が若者の間で「未知のカルチャー」として興味を持たれ、実体験した高齢者層には懐かしい思い出ということで、ブーム化しています。Spectionは見るという意味ですし、activeは行動ということなので、視点と実際の行動の違いです。その意味では、懐古趣味と遡及的方法論は異なります。法律の世界では、その法律が成立する以前の判決や犯罪の捜査は公平性という意味から、遡及的には適用できない、というのが常識になっています。法律は成立前も改正後も適用されることはなく、成立中においてのみ適用されなくてはなりません。

しかしこれは法律の適用の話であって、他の分野で、すべて遡及的方法が禁じられているわけではありません。たとえば技術は過去の積み重ねですから、行き詰った時、最初に戻って、そこから作り直すことはよくあります。技術だけでなく、科学はどの分野も過去の実績の積み重ねですから、時には過去を振り返ってみると、そこに新たな発見があったり、新しい枠組みのヒントがあることはしばしばあります。

過去の事実を研究するのが歴史学ですが、歴史学といえど過去の事実をすべて掌握しているわけではありませんから、文献や物証などの限られた証拠からの類推で記述されています。それで時々、偶然に発見される未読の文献や新証拠によって、それまでの学説(類推)が修正されたり、時には反転することもよくあります。また現代の視点から遡及的に過去の歴史を眺めると、当時の状況が新たにわかることもあります。歴史学は固定化された定説の集大成ではなく、つねに流動的に変化している分野です。一般の人々は歴史の教科書が書き換えられるたびに、驚くだけですが、確かに教科書に載っていた聖徳太子や足利尊氏の絵が違っていた、といわれるとショックです。鎌倉幕府の成立もせっかく「いいくに」で覚えたのに、変わってしまうことに違和感があるのも当然です。歴史も過去の積み重ねなので、事実の展開には原因があってこそ展開があるのは自明です。因果応報という仏教思想を持ち出すまでもなく、展開から原因を推測する方法は1つではありません。ただいろいろな諸説がある、では人々は受け入れがたいので、結論は1つであってほしい、という要望があります。とくに試験の答えは1つであることに慣れています。実際の世界は諸説あるのが当たり前です。そういう前提で、すべてを遡及的に研究してみることは有効な手段です。温故知新という論語も遡及的方法を推奨しています。

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