餅搗き
餅搗きは日本独特の風習ですが、最近は見なくなりました。ほとんどの家庭ではスーパーでプラスチック型の鏡餅を買ってくるのではないでしょうか。最近はこの鏡餅型の中身はパックされた切り餅が入っていて便利という商品も売られています。搗きたての餅が食べたいという人には餅つき機があります。臼に杵で搗くというのはイベントでもないと見ることはないと思われます。
落語「尻餅」では昔の餅搗きの風景が出てきます。「賃搗き」という商売があって、主に農家の副業だったようですが、餅搗き道具一式を持って若い衆数人と家々を回って餅を搗き賃料をもらうという商売があったそうです。家では糯米(もちごめ)を準備しておき、台所で米を蒸かすところから搗き上げまで全部やってくれるのですが、時間がかかるので酒をふるまったり、祝儀を出すのが普通だったようです。賃料で搗くので「ちんもち」というのですが、子供の頃はまだこの言葉が残っていました。地方によっては、家で搗かないで買ってくる餅をちんもちという所もあるようです。
搗いた餅を丸めるか平たく伸ばすのですが、これも地方性があります。平たく伸ばすのをのし餅、丸めたものを丸餅というのが一般的ですが、関西地方ではかまぼこ型に丸めるものを「ねこ餅」というようです。
餅も普通にまとめたものの他に、中に豆を入れたり、砂糖を入れたり、色素を入れたりするものも多く見られます。沖縄では黒糖を入れる餅もあるそうです。
できたての餅を食べるのは楽しいものですが、砂糖やアンコの他に、納豆、大根おろし、ずんだ、などいろいろな食べ方があるのも日本的です。
手話で正月は<1月1日>が標準ですが、<餅をまるめる>で正月を表現することもあります。ある南方の島の方言では<豚を殺す>が正月を表す方言があります。この地域では昔は正月にのみ豚肉を食べるからです。豚肉は高級品であり、普段は山羊肉だったのです。今ではこの風習も終わっていますが、手話に古い習慣が残っているわけです。手話方言に限らず、地域の習慣は方言に残っています。地域ではそれが当たり前すぎて、他の地域も同じと考えがちです。地方出身者が都会に出てきて初めて自分の地域が全国区でないことを知ることは大いにあります。一方、都会で生まれ育った人は地方のことを知る機会があまりありませんから、都会の習慣が全国区だと思い込んでいることが多いのです。しかしそうした習慣も年月とともに変化していくのも宿命です。餅そのものはあまり変わりませんが、餅搗きは変わってしまいました。
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