弱形と縮約3



日本語にも縮約があります。恐らく国語の時間にも曖昧な説明しかされてこなかったと思います。たとえば「してしまった」を「しちゃった」と表現するものです。これまでどのような説明で納得されてきたのでしょうか。このように「てしまった」を「ちゃった」とするのは一応共通語なのですが、地域方言では「してもうた」「してまった」などの変異型があります。これは書き言葉と話し言葉の違いだからです。書き言葉は基本的に共通形として1つの表現しかありませんが、方言は話し言葉なので、地域差が大きく、多くの変異型があります。そのうちの一部が書き言葉として定着していきます。当然、時代とともに変わっていくわけです。

明治時代に言文一致運動というのが盛んでしたが、それは書き言葉は文献として残るため、なかなか変化しにくく、いわゆる「古い文体」がそのまま使われる傾向があります。一方で話し言葉はどんどん変化していくので、時代が経つとその差が非常に大きくなり、不便なことがでてきます。とくに教育との関係が大きく、学校で書き言葉を習った人と習わないまま仕事につく人で社会的な差が出てきます。これが昔の教育の基本である「読み書き、算盤」、現代でいう国語と算数ということです。この2つの技能により、職業の範囲が決まってしまいます。言文一致運動はこの書き言葉と話し言葉の差を縮めて、「話すように書く」ことで親しみのある文章ができ、大衆小説が広がっていくことになりました。今でもこの言文一致は続いており、漫画のセリフは現代語の話し言葉がそのまま反映されています。

この漫画による「話し言葉に近い書き言葉」は今、全世界に広がっています。近年、日本にくる外国人の日本語が上手なのは、漫画を通じて日本語の話し言葉を習得したせいだと考えられます。実際に来日すれば、話し言葉がそのまま通じるので、問題はないわけです。問題は書き言葉がいまだに通用している世界、書類とくに行政、司法などの書類は文字がよくわからないものが多い上に、理解がむずかしいものになっています。こういう話し言葉と書き言葉の離反はどの言語にもあり、英語でも行政や司法の英語はかなり難しいのですが、実は日本英語のできる人は割合簡単です。日本人留学生は議論下手でも論文上手なのはそれが原因です。

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