色名の文化


梅とメジロ

白馬と書いて「あおうま」と読ませるのは、知識がないと絶対に読めないものです。こういう特殊な読み方だけでなく、「当て字」といわれる特殊な読み方があるのも日本独特の習慣です。外国語でも、特殊な読み方がないわけではないのですが、例外的です。劇作家バーナード・ショウが作ったとされるghotiはlaughのgh、womenのo、nationのtiなのでfishと読むのだというのはジョークです。

日本語のアオの意味は広く、ブルーの意味を中心として、黒馬の意味もあり、信号のグリーンなどが含まれます。一方で黒いものの表現として「みどりの黒髪」というのもあり、色名が独特の文化をもっています。色名の多くは「〇〇色」というように、何かに例える命名法が一般的です。しかし赤や青はそういう物がないので、例えではありません。このように例えではない色名を基本色彩語といいますが、日本語は黒、白、赤、青の4色という説が一般的です。それに対して、何かに例える、つまり借用による色彩語は豊富にあります。茶色、桃色などはすぐわかりますが、うぐいす色とか、きつね色となると多少わかりにくくなります。うぐいす色は、そもそも鳥のウグイスはうぐいす色をしておらず、よく見る梅の木にいるのはメジロです。本物のウグイスは藪の中にいることが多い、茶色をした目立たない鳥です。あのホーホケキョと鳴くのはウグイスなのですが、姿を見ることはまずありません。そしてメジロはホーホケキョとは鳴かないのです。世間は別々の鳥を間違えて覚えている、というのも日本文化です。鼠色というのも似たような側面があり、確かにそういう色のネズミもいますが、多くは白いハツカネズミや黒い家鼠、ドブ鼠などですから、ネズミ色として一般化はできないものです。さらに複雑なのは「利休鼠」で、北原白秋の有名な「城ヶ島の雨」の中に「利休鼠の雨」という句が出てきます。どういう色だか想像できる人は今では少ないと思いますが、江戸時代には鼠色が流行った時期があり、風流で高尚な色とされていました。利休という命名から千利休を連想しますが、利休好みということではなく、利休から茶道を連想し、その連想の中で抹茶の緑色を連想し、その緑色と鼠色とが混ざった色を利休鼠として好まれた、という歴史的産物です。日本語の色名にはこの他にも海老茶色とか萌黄色など、歴史や文化を背景とした命名が数多くあります。

外国語からの借用はカタカナで表示されるのですぐわかります。英語では基本色彩語がblack, white, red, blueは日本語と同じですが、green, yellow, brown, grey, pink, purpleなどが基本色彩語です。言語ごとに基本の色彩語の数は違い、すべての言語は最低 2 つwhite, black に相当する基本色彩語があり、3 つの場合には white, black, red、4つの場合には green または yellow のいずれかが加わり、5 つの場合には green, yellow の両方とも入る。 6 つの場合には blue、7 つの場合には brown、8 以上であれば purple, pink, orange, grey のいずれかが加わるというのが定説です。

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