如月といえば


桜

如月というのは普通に読むと意味がよくわからない名称です。ジョゲツならそのままですが、どう読んでもキサラギにはならない慣用的な読み方です。語源を見ると、「寒さで着物を更に重ねてきることから着更着という」とのが定説のようです。他にも気候が陽気になる季節なので「気更来」とか、「息更来」という説もあるようです。また更に草木が生え始めるので「木更木」という説もあるそうです。さらには芽が張り出す時期なので「草木張り月(くさはりづき)」が転訛したという説もあるそうです。何となく、音から当て字をして想像したような語源説のような気もしますが、そこから自分なりに好きな説を選んで納得すればよいのでしょう。今年は如月が来るのが遅いので、木更木がけっこう当たっているような気がします。

漢字の方の如月は中国の字典に「二月を如となす」とあるそうで、中国も日本でも月に異名がたくさんあります。中国では2月の異名として、他にも杏月、花月、仲春、绀香があるそうです。なぜ如月だけが日本で残ったのかはよくわかりません。日本では2月の異名として梅見月というのがあります。これは意味がすぐわかります。恵風というのは春風が吹く頃という意味だそうです。春風を恵みの風というのが何ともいいですね。雪解月、雪消月もわかります。木芽月や雁帰月というのは自然観察をしていると実感できます。令月というのは、めでたい月、何をするのにも良いとされる月という意味です。『万葉集』に「初春の令月にして、気淑(よ)く風和(やわら)ぎ」という歌があり、元号「令和」の「令」はこの歌の令月に由来します。令和六年令月というのもなかなか風情がある表現です。何かめでたいことが始まりそうな気がします。

如月というと西行の有名な和歌「願わくは花の下にて春死なんその如月の望月の頃」を思い浮かべます。今年の如月望月は新暦の3月25日ですから、本当に桜が咲いている頃です。地域によっては、もう散り始めている頃かもしれませんから、桜吹雪の下で西行を偲ぶのも、また風情があるのではないでしょうか。意外なことに春を詠んだ和歌は多いのですが、如月が直接でてくるのはこの歌くらいです。一方で、如月は季語なので俳句はたくさんあります。西行の命日である如月望月の日を詠んだ「きさらぎの 日和もよしや 十五日」(上島鬼貫)は西行に憧れる気持ちがよく表れています。「死はいやぞ 其きさらぎの 二日灸」(正岡子規)は同じ西行の命日を詠んだ句ですが、まだ死にたくないから二日灸をすえる、という西行とは反対の生への執着を示しています。二日灸とは旧暦2月2日に据えるお灸のことで、効果が倍になる、長生きするなどの効能があるとされていました。本日がその日ですから、長生きしたい人は灸をすえてはいかがでしょう。「お灸をすえる」のは誰かを叱ることだけではありません。「きさらぎの 藪にひびける 早瀬かな」(日野草城)は如月になり春へ向かうことで勢いを取り戻し始めた薮に日がさしこみ、流れの早い急流の音が響いている、という美しい情景が描かれています。如月を楽しみましょう。

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