大学は失業対策?
あるアメリカ人から「日本の大学は若者の失業対策ではないか」という指摘を受けたことがありました。想像もしていなかったので、かなり驚きました。彼によれば、どの国でも失業対策は経済対策として重要で、若者の失業はとくに政治不安になりやすく、政府はかなり神経をとがらせているということです。日本の失業率はおおむねアメリカの半分ですが、その理由が日本の失業率隠しだというわけです。多くの国では、職のない若者は軍隊に吸収し、そこで職業訓練をして、退役後は産業に従事できるようにしています。軍というと日本ではすぐに戦争をイメージしますが、軍が戦争することはアメリカや中東などを除けば、そうそう頻繁に戦争が起こるわけではなく、普段は訓練中心です。そのために国家予算の多くをつぎ込んでいるのですから、国策としては重要です。実際、軍事技術は民間技術より上ですから、軍事技術を習得することは民間技術の向上にもつながるわけです。
日本では高校卒業後、直ちに就職する人は少数で、多くの若者が進学します。その間、労働者ではないので、失業者にカウントされません。しかしアルバイトはする人がほとんどです。学生アルバイトは普通のアルバイトと違い、建前上は雇用保険の対象にはならず、解雇されても失業とはみなされません。近年はアルバイトで学費を稼ぐ人も増えてきましたが、昔は基本的に親が負担することが多いので、政府はなにもせずに親に失業対策経費を出させているのと同じです。そのために軍事予算も少なくて済んでいます。それが可能なのは日本では私立大学の数が異常に多く、大学生の受け皿が大きいことです。Fラン大学と称される教育内容や経営に問題があったりしても、かつては「モラトリアム」と呼ばれた「遊んでいる時期」を過ごすことができたのも、こうした日本の制度が原因でした。また日本の家庭の教育費が異様に高い原因もここにあります。考えようによっては非常に大きな無駄といえます。高校を出た若者の労働力はかなり高く、また修行期間としても重要です。大学進学の必要がなければ、普通高校の需要は減り、実業系高校の需要が高まります。欧州では今も工業高校、商業高校、農業高校、師範学校、看護学校などが普通高校より多く、戦前の日本は欧州型の高等教育制度でした。それが一変したのは戦後で、アメリカ式を導入したことが現在につながっています。結果として私立大学が乱立しているのは日本とアメリカということになりました。では戦前に比べて中卒後の若者の知識や能力が高くなったかというと、そうはいえなさそうです。そして職人の数が減り、伝統的な職業が後継者に悩む時代になっています。現在、少子化対策が日本の重要な問題になっていますが、進学率を下げて就職率を高めると、かなりの労働力が生まれます。「大学教育は社会に役立っていない」と嘆く経済人の悩みも解消します。私立大学を減らすには補助金を支給しなければ自動的に減少します。予備校も減ります。親の教育費も減ります。無償化は逆方向の政策といえます。
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