手話の雑学22


手話で話す女性のイラスト

手話教育を考える上で、日本の英語教育の例が参考になります。というのは英語教育が日本で一番影響力のある言語教育だからです。英語の音声教育でもヒアリングに重きがあって、スピーキングは重視されていません。つまり「受け身」が中心で「発信」に力点が置いていないのが伝統的かつ現状の英語教育です。これが言語間の力関係ということなので、日本語と手話の力関係は当然、日本語優位です。

日本人は英語をほぼ全員が学習しますが、日本語を学習する英語圏の人はごく少数です。最近になって、アニメやマンガの影響で、日本語を学ぶ外国人が激増していますが、語学教育として日本語を学ぶ世界の人々はまだまだ少数です。それと同じ関係が日本語と手話にあり、聾者は全員国語を学びますが、健聴者で手話を学ぶ人はごく少数です。手話を学ぶ人は通訳者を目指す人か、周囲に聾者が要る人、そしてたまに聾文化に興味がある人、ということになります。日本人が英語を学ぶ時、通訳になりたい、周囲に外国人がいる、英米文化に興味がある、という人は少なく、ほとんどは「受験がある」からでしょう。そして当然、「受験英語」という日本独特の英語が発達し、それが「日本英語」やジャパニーズイングリッシュという「言語変種」を形成するまでに発達しました。英語の使用者という観点から見ると、日本英語の使用者は約1億人という巨大な人口です。これは日本だけのことでなく、インド英語、中国英語などの巨大英語変種人口だけでなく、カナダ、オーストラリア、フィリピン、ジャマイカ、南アフリカ、シンガポール、など、もう国語化した英語変種が存在しています。そこで社会言語学ではこれらの英語を総称してWorld Englishes(世界英語)と英語の複数形で表しています。当然、その中には英英語、米英語そして日本英語も含まれています。つまり日本人の多くが思っているような英米語が英語という概念はもう時代に合っていません。大本はイギリスの英語であったものが、アメリカに伝播し、インド、アフリカそして国連などの国際機関で使用されることで、それぞれの国の土着の言語と混じり合いながら、それぞれに発達していった英語変種の総体が英語ということになります。重要な点は、言語は混じり合いながら進化していく、ということです。

それは日本語の歴史を見てもわかります。実は日本語のルーツは未だに不明ですが、文字が生まれて記録が残っているものから、ある程度は昔の形が想像できます。古代日本語は当時の「先進国」である中国大陸やその経由地である朝鮮半島の文化の影響を受けました。漢字が導入され、それを日本語風に改作した仮名文字が生まれ、漢字かな交じり文ができていきました。近代になると欧米の言語の語彙が入り、その翻訳語が漢字で作成された漢訳語は今や、日本語の中核をなしています。そして現代は英語の影響が強くなり、当初はカタカナで導入されたものが、今ではアルファベットのまま、導入されています。それが現代日本語の姿です。

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