逆成 back-formation
新しい語を作り出すしくみのことを造語法といいます。造語法にはいろいろな方法があり、言語によっても違います。その中で逆成という方法が日本語でもよく用いられます。とくに外来語を借用して作った外来語を利用する場合に、原語の意味をあまり理解せず逆成する現象が近年増えてきました。日本語の逆成の例としては、「億ション」があります。マンションは英語のmansionからの借用ですが、マン=万という意味と解して、1つの形態素と考え、万を億に変換することで億ションという新造語が生成されました。本来の原語であるmansionのmanに万の意味があるはずはなく、これは日本語内でマン+ションという、形態素の分断が行われたと考えられます。
日本語では2音連結による新造語生成も頻繁に行われます。パーソナル・コンピュータは2語が連結された複合語です。原義を直訳すれば「個人計算機」ですが、これは日本で生成された和製英語です。英語では当初、office computerに対してhome computerが対比されたのですが、日本ではオフコンに対してパソコンという用語として浸透しました。現在、英語圏もPCということが多く、personal computerの意味で使われ、その後、タブレット型ができたり、スマートフォンができたりして、PCはデスクトップパソコンの意味に変化しています。おもしろいのは、会社のコンピュータがoffice computerで、各家庭に1台という意味のhome computerが造語されたのに対し、日本では「ホームコンピュータ」は普及せず、「マイコン」が一部普及しました。これは「自分の」という意味なのか、microの意味なのか曖昧のうちに消滅し、家庭という意味のfamilyが使われた「ファミコン」はゲーム機の意味に分化していきました。
新語生成に際して、パーソナル・コンピュータの場合、パーとコンという2音がそれぞれとられるので、通常なら「パーコン」となるのですが、この例ではパソが採用されました。この選択の理由はよくわかりませんが「いいやすさ」などにより自然に選択されるようです。この例ではパソは1つの形態素として、個人というより、小型というような意味になっているようです。最近ではパソコンという語そのものがコンピュータの意味に拡大されている傾向が見られます。またノート・パソコンが登場するにつれ、「ノーパソ」という語も広がり、もはやコンという語も消えてしまいました。ちなみに英語圏ではlaptop computerあるいは単にlaptopという語になっていて、日本語のノーパソとlaptopは全く別の進化をしました。パソコンは逆成ではなく、元はパーソナルとコンピュータという2語が連結されて1つの新しい意味を作り出す「複合語」という語の生成方法です。ただし、パソコンのパソもコンも語ではなく形態素と考えられるので逆成との区別は曖昧です。日本語に多く見られる2音連結という省略語は形態素的な意味を残すため、英語の頭韻語とは大きな違いがあります。頭韻語というのは、たとえばUnited States of AmericaをUSAのようにアルファベットの最初の文字を連結させる方法です。この場合、それぞれのアルファベットには意味がないので形態素ではありません。語の進化もガラパゴス的なのが日本語です。
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